#たそがれ
黄昏。夕方は人の姿が見分けにくく、“誰そ彼”と聞いていたことが由来という。
「ねえ、アツシ」
「……」
「ねぇってば、無視しないでよ」
「……」
あいつは、そもそも家が別方向だからさっき曲がり角で別れたばっかりなんだ。
「ねぇ、さっき僕に声かけたじゃん」
「……」
「ネェネェネェ、アツシ。イカナイデ。」
「……っ」
この人じゃないの、誰? なんであいつと同じ格好してるんだ。でも絶対あいつじゃないってすぐわかる。だって、あいつがいつも大事そうにしてるキーホルダーがバッグについてねえもん。たぶん幽霊とか、そういうのなんだこいつ。
もう居ても立っても居られなくて、走って逃げた。
足は遅かったから助かった。でもずっと、俺の名前を呼んできて、怖かった。
———とある記事。
男子小学生(7)が下校中、車に轢かれて亡くなりました。目撃者によると男児は横断歩道でずっと何かを探しており、それに気づかずに車に轢かれたとのことです。車は逃走中で、警察は……。
#きっと明日も
泣いて、泣いて、泣き疲れて。
でもそれでも止まらなくて、ずっと泣いた。
そのまま溶けてなくなるんじゃないか、ってくらい泣いた後、お風呂に入った。
誕生日プレゼントに貰ったなんか綺麗なバスボムを入れて、スマホで“素敵なバスタイムを演出するプレイリスト”なんてかけたりして、あったかいタオルで目を温めたりして、珍しく長風呂をした。
髪も体も顔も一番いいやつで綺麗にして、心もなんとなく綺麗になった。
よし、明日も、がんばらずにがんばる。
そんなことを考えて、アイスを食べるのだった。
(別垢で投稿しちゃったのを再投稿)
#月に願いを
「明日が上弦の月か」
夜空を見上げて、満月になるまで遠いなと独り言を呟く。日没が遅くなり夜に虫の声が聞こえれば、夏が来るんだとすぐにわかる。
メイドも執事ももう寝静まっているのかとても静かだ。しかし城下の町を見ればまだ煌々と明るい酒場が点々とある。
「神様、月に住まわれる女神様」
月に向かって手を組み、祈りを捧げる。
「昨年は冷夏であり、十分な作物を取ることができませんでした。どうか今年こそは、良い夏をお恵みくださいませ……」
組んだ手を強く握り、女神様に届くように何度も何度も祈る。
今年こそは、民が憂いなく過ごせますように。
#愛があれば何でもできる?
「私のこと、好き?」「ああ」
「私のこと、愛してる?」「ああ」
「なら、何でもしてくれる?」「……ああ」
彼女は、俺に包丁を持たせる。
そしてこう言って微笑む。
「貴方の敵を、退治して。私、とっっても困ってるの」
おそらく、あの子のことだろう。
俺は……彼女のために、愛のために、人を殺せるだろうか。
いや。
愛のために愛に殉じるのがいいかもしれない。
例えば、心中するとか。
どちらなら、できるだろうか。
#風に身をまかせ
今日は、風強い。
そのせいで海も荒れている。
ぐるぐると渦をまいて、僕はそこに引き込まれていく。
あわわ、わわ。
体がぐるぐる、目が回る。
痛覚がない体とはいえ、不自由だなあ。
クラゲってやつは。
風に身をまかせ、海流に身をまかせ。
どこへともなく泳いでいく。意外と、楽しいよ。