「あぁ、今日は月が綺麗だね」
「月見をする日らしいですよ」
「日にちが決まってるんだ? いつでも見上げて、楽しめばいいのに。なんだか不思議だね」
「特別綺麗に見えるからじゃないですか」
「なるほど」
「この花だってそうでしょう? 芽が出て茎や葉が伸びて、蕾が膨らんで、花が咲く。そのタイミングを見計らって、私も貴方も見に来たんですから」
「そうだね。そう考えると一番綺麗に見える日が分かるというのはありがたい事なのかも」
「それにしても、確かに見事な月ですね」
「私達がこうして見ている月の光は、本当は太陽の光なんだよな」
「そうですね。月自身が輝いているわけではなく、太陽の光を受けて反射した光が私達の目に届いている」
「·····君はよく私を褒めてくれるけど、私が正しくあれるのは君がいるからだよ」
「なんです突然」
「私も君という光を受けて輝けるんだ」
「·····」
「この花が綺麗に咲くのも、陽の光をその身に受けているからだろう? 私の太陽は君だよ」
「·····ベタな口説き文句ですね」
「とか言って、口説かれてくれないくせに」
「だって、口説く必要無いでしょう。私はこんなに貴方に焦がれている」
「·····それなら私だってそうだよ」
「貴方、ちょっと喋り過ぎですよ」
「·····あぁ、ごめん」
「手、出して下さい」
「ん」
「せっかくですから歩きましょう。花畑はこんなに広いんですから」
「·····ふふ」
――なんだ。お互いとっくに口説かれてたんだ。
END
「花畑」
空から降り注ぐ雨を涙と見立てているならば、ここ数年のゲリラ雷雨はさしずめ号泣と言ったところだろうか。なにがそんなに悲しいのか。
――決まっている。
奢り昂り、振り返ろうともしない人間に失望したのだ。
傷付けられた自然に気付かぬまま、尚も汚し続ける人間に、いつか涙は枯れるのだろう。
泣き疲れた果てにあるのはきっと·····怒りだ。
怒りは炎になって、いつか罪深い人間達を焼き尽くす。
もっとも、気付いた人間が増えればその結末は変えられるかもしれない。
END
「空が泣く」
「また来年も行こうね。ばいばーい☆」
スタンプと共に送られてきた、君からのLINE。
何ヶ月も前から計画を立てていたデートは、アトラクションを五つ制覇したところで突然の雨に見舞われた。フードコートに避難して、びしょ濡れのままパンケーキを食べて、その時笑いながら撮った写真はまだスマホに残っている。
結局雨は止まず、駅まで走ってその後は濡れた服のままの君を家まで送った。
お母さんに何度も頭を下げられた覚えがある。
その日の夜、送られてきたLINE。
写真には濡れた服がハンガーに掛けられていた。
「来年は俺が行きたいところにしてよ」
そう送ったのに、既読は一向につかなかった。
君からの、最後のLINE。
スマホを見るたび、もう使わないアイコンが目に入る。タップして出てくる文章に、涙が滲んだ。
文章が残るアプリは正直キツい。
それでも俺はアンインストール出来ないでいる。
END
「君からのLINE」
「命がいつか燃え尽きるものだとして、燃料は何になるのでしょうね?」
「想い、かな」
「想い?」
「好きとか、許せないとか、変えたいとか、見たいとか、生きたいとか、まぁ欲、かな」
「欲·····」
「生きたいという想いがだんだん薄れていくというか、思っていてもそれを発する力が無くなっていくのが、死に繋がるんじゃないかな·····」
「·····」
「一度きりだから尊いし、唯一だったのだろうけれど」
「再び得た命を新たに燃やす事が出来るのは奇跡ですよ」
「そうだね」
「ならばその奇跡に報いる燃焼を見せつけようではありませんか」
「·····望むところだよ」
END
「命が燃え尽きるまで」
革命が起こることを〝夜明け〟と表現することがある。
「ニッポンの夜明けぜよ!」とあの人が言ったかどうかは分からないけれど、革新的な技術や考え方が見つかったり開発されたりして、体制がガラリと変わることを夜明けと言うことはままある。
確かにそれまで非効率的だった作業が新しい技術でぐんと効率が上がったり、新しい考え方や価値観が広まってそれまで虐げられてきた人が開放されたりすることは、暗黒だった世界に光が差し込むような、正に夜明けというべき事象なんだろう。
中世を〝暗黒時代〟と表現するのもそういうニュアンスがあるんだと思う。
でも。
それまでの世界は全くの暗黒では無いはずだ。
それまでの世界で微かな光を見出して懸命に生きてきた人達はいる筈だ。
科学技術の発展や新しい価値観の広がりは確かに人間を豊かにするものだけれど。
夜明け前の世界を暗黒だと決めつけたくはない。
暗い空だからこそ星は輝くし、暗い部屋だからこそ蝋燭の灯りは眩い。そんな暗闇の中で仄かに輝いていた人達を、もっと知りたいと私は思う。
END
「夜明け前」