ざあざあと雨が降っている。
小さな黄色い傘が道の隅でじっと動かないままでいるのが気になって、窓を開けてみた。
「ねー、何してんの?」
もしかして、捨て猫でもいるのだろうか?
しゃがみ込んだまま動かない小さな子供の背に、もう一度呼びかける。
「なに見てるのー?」
子供はぴくりとも動かない。
何をじっと見てるのだろう? 気になる。
「あぁ、アリンコかぁ」
しゃがみ込んだ子供の視線を追うと、道の隅で蟻が行列を作って何かを運んでいた。
「おうちに行ってるの?」
子供が呟く。
「そうだね。ご飯たくさん貰えたから、巣で待つ仲間にも食べさせてあげるんだろうね」
「いいなあ」
「いいなあ?」
思いがけない反応に、思わず問い返す。
「ご飯たくさん、いいなあ」
「――」
よく見たらその子は酷く痩せていて。
そろそろ季節も変わるというのに、薄いシャツ一枚で。
「お兄さんと一緒になんか美味しいもの食べに行こっか?」
並んでしゃがみ込んでその顔を覗き込むと·····
「いただきまぁす」
バクン。
END
「雨と君」
小学生の頃、誰もいない理科準備室でホルマリン漬けのカエルを見た事がある。
ホルマリンのせいで真っ白になった体。
有り得ないところから生えていた五本目の足。
虚ろな瞳。
何気なく開けた引き戸の中にいたソレに、鳥肌が立った。
こんな田舎の小学校に何故いるのか。
どこで見つかったカエルなのか。
説明のような物は一切なく、ただガラス瓶だけがそこにあった。
私の中にある鮮烈な記憶。
思えば他にも奇妙な点はあった。
何故普段自分達が使う教室とは全く違う棟にいたのだろう?
普段は絶対触らない磨りガラスの引き戸を、何故その日に限って開けてしまったのだろう?
何故ホルマリン漬けのカエルがあんなにも気になってしまったのだろう?
考えても答えは無く、私はまた彼等に導かれる。
ゲコ。
頭の奥でナニカが鳴いた。
END
「誰もいない教室」
赤黄青の三色を思い出すか、トントントンツートントンの音を思い出すか、ネットミームになったハンドサインを思い出すか。
アイドルかアニメのキャラかゲームのキャラで、信号機トリオってあったから私はどうしても赤黄青の三色を思い出す。
今ハマってる漫画にいるトリオも信号機カラーだしね!因みに私の推しは黄色です。
END
「信号」
お前を英雄と称える事は絶対に無い。
お前とワタシが分かり合える事は絶対に有り得ない。
お前に許されたいとも思っていない。
お前がワタシを許すとも思っていない。
他に方法が無かったのか。多分あったのだろう。
そんなに俺が怖いのか。怖くないわけがないだろう。
自分が消えると分かっていながら、それを受け入れるだけの強靭な精神を、一体どれだけの人が持っているのか。
アンタはそれでいいのか。
瞬間、交わされた瞳が無言の内に訴える。
質問には答えない。
いつかお前が寄越した言葉だ。
ワタシはこの生き方しか知らず、他の生き方を知らない。お前のようにはなれない。
お前になら殺されても仕方ない。心の底からそう思う。この身を引き裂いて、海にバラ撒いて、最後に唾でも吐いてくれ。
ワタシの望みは叶うことなく、言い出せなかった言葉は胸の奥に押し込められる。
「すまなかった」
届くことの無い言葉は青い海にポチャンと落ちた。
END
「言い出せなかった「」」
この恋は知られてはならない。
この恋は叶えられてはならない。
この恋は地獄まで持っていかなければならない。
私は恋をしている。
私は崇拝している。
私は·····狂っている。
あの方の信頼を裏切ってはならない。
あの方の期待に応えねばならない。
あの方を汚してはならない。
あの方は誰かのものであってはならない。
あの方の羽根をもいではならない。
あの方の顔を曇らせてはならない。
私は
あの方を
「××××××氏の死亡を確認しました」
「ご苦労様」
「馬鹿だねぇ·····。こんな姿になって」
小さな小さな粉になった私は、その時ようやく永遠にあの方のお傍にいられる権利を得た。
あぁ、こんな幸福があるだろうか!!!
END
「secret love」