せつか

Open App
10/17/2025, 3:56:22 PM

喫茶店で紅茶を頼んだ時、砂時計が一緒に出てくることがある。
砂時計をひっくり返して、店員さんが蒸らす時間を説明してくれて、「この砂が全部落ちきったら飲み頃です」などと言ってくれる。
こういう店に当たるとちょっと嬉しくなる。

ゆったりとした時間が流れ、スマホを少し置いて砂時計が落ちきるまでの数分間、窓から外の景色を見たり、持ってきた文庫をどこまで読めるか試してみたり、砂時計の砂がサラサラと流れ落ちるのをじっと見たり、そんな時間の過ごし方が楽しくなる。
静かで雰囲気のある店にいると、砂が流れ落ちる音が聞こえてきそうだ。

そういう店の紅茶は一際美味しく感じる。

そういう店が無くならずにいつまでも残ってくれるといい。


END



「砂時計の音」

10/16/2025, 2:45:45 PM

ある日、ある国の天文省の大臣が言いました。
「来年から星図が一新されます。青い星と黄色い星と白い星の連なりは、必要では無くなったので星図には載せないことになりました」
国民はみんなびっくりしました。
星図の真ん中に描かれた青い星と黄色い星と白い星の連なりは、この国の神話になぞらえた、ずっと昔からある連なりだったのです。
国民の疑問と怒りと悲しみの声に、大臣は何も答えることが出来ませんでした。

会見が終わり、城を去る大臣を一人の男が笑って見送ります。それはこの国の新たな王様でした。
「長きに渡っての王国への献身に感謝する」
嘘でした。
新たな王様はクーデターで前の王様を殺し、玉座に転がり込んだのです。彼は前王の遺産とされるものを全て破壊しました。

こうして、とある国の彩り豊かな物語とそれを語り継ぐ星の連なりは、一人の独裁者によって無いものとされてしまったのでした。


END


「消えた星図」

10/15/2025, 3:55:45 PM

愛から恋を引いたらって?
やだねー、これだから恋愛至上主義は。
恋なんてしなくたって人は生きていけるし、恋という概念が無い人だっている。
それに愛って、恋に関係なく存在する言葉だよ。
人類愛、家族愛、親愛、敬愛、友愛、信愛、隣人愛、愛着、愛嬌、郷土愛·····恋愛に関係無い、愛の付く言葉はたくさんある。
友情より愛情とか、比べるモノじゃないでしょうに。
どっちも大切に出来るのが良くない?

なんで恋の為に全てを蔑ろにすることが「トートイ 」になるんだろうね?

愛-恋=恋情以外のあらゆる愛。だよ。


END


「愛-恋=?」

10/14/2025, 3:51:18 PM

「梨のシャクシャク、と林檎のシャクシャク、は違うよね。みんな違わないって言うんだけどさ」
私の隣で梨の皮を剥きながら、彼女は言った。
「まぁ感覚は人それぞれだから」
彼女が差し出した一切れを受け取りながら、私は答える。今年初めての梨は不器用な彼女の手の中で、少しぬるくなっていた。
「私は梨食べてると時々口の中が痒くなるんだけど、でも好きだから食べちゃうんだよね」
「梨でそうなる人初めて見たよ。パイナップルでなる人は知ってるけど」
「うそ!?」
「ほんと」
驚きに声を上げる彼女の唾が飛んだが気にしない。
それより彼女の言う〝梨と林檎のシャクシャクの違い〟を考える。林檎を食べた時の感覚を思い出そうとするが、上手く出来ない。梨を食べながら、だから当然と言えば当然か。
「やっぱり感覚って人によって全然違うんだねえ」
シャクシャク音を立てながら、彼女は梨をいくつも頬張る。
「今度、梨と林檎一緒に買ってきて食べ比べてみようか?」
「それいいじゃん!」
目を輝かせて彼女が笑う。
「美味しそうなのがあったら買っておくよ」
「やったね!」

シャクシャク、シャクシャク。
ニコニコと笑いながら梨を頬張る彼女の傍にいるだけで、私は幸せで胸が一杯になる。
――そう、梨と林檎の違いが分からないことなど、気にならないくらいに。
目が見えない私は、味が分からない私は、彼女の感覚から伝わる世界だけが何より大切で。
それ以外の何を無くしてもいいと、本気で思っていた。


END



「梨」

10/13/2025, 11:52:05 AM

あの子はいつもご機嫌に歌をうたう。
甲高い声で、お世辞にも上手いとは言えない歌を。
「ふんふーん♪」
何をする時でも歌をうたう。
以前、なんでそんなに歌が好きなのかと聞いた事がある。するとあの子はニコニコと笑ったまま、「言っても無駄だから教えなーい♪」と歌うように返された。

今もあの子はご機嫌で歌っている、
鈍い音をBGMに、何度も両腕を上下に振りながら。
飛沫をあちこちに撒き散らしながら。
「LaLaLa Goodbye ~♪クソみたいなこの世にサヨナラ~♪」
どこかで聞いたことがあるような無いような、もしかしたらあの子が即興で作った歌なのかもしれない。
「いつかの質問答えてやるよ」
手にしたものを放り投げて、あの子が振り向く。
頬に飛び散る飛沫が鮮やかに僕の目に映る。
「歌でも歌わなきゃやってらんねえ毎日だったからだよバーカ!」
鈍い音が再び響く。

僕の意識はそこで途切れた。


END


「LaLaLa Goodbye」

Next