凍える朝(TOV)注:微腐向け
テントから差し込む、薄い光で目が覚めた。
キンとした冷たい空気が、辺りを包んでいる。
吐く息が白い。
身体を起こすと毛布が滑り落ち、寒さに思わず身震いした。
外が何やらキラキラして見える。
レイヴンは毛布を拾い、雑に身体に巻きつけると、テントの入り口をそっと開いた。
朝日が目に眩しい。
その柔らかい光が、空気をキラキラと輝かせていた。
チカチカと光るそれ。
毛布に落ちてきたその小さな粒は、綺麗な結晶を形作っていた。
よく見ると、どれも違った形をしている。
紋章のような、宝石のような、氷のかけら。
それが視界いっぱいに、サラサラと降っている。
木々に積もる雪も、氷も、みずみずしく光っていて。
全てを祝福しているかのような、美しい光景だった。
しばし見惚れてぼんやりしていたが、バサリと肩に重みが乗って、我に返った。
夜の見張り番を務めていたユーリが、レイヴンがいつの間にか落としていた毛布を拾って肩にかけてくれたのだった。
とたんに寒さを思い出し、毛布を慌ててかき抱く。
「あっ、せ、青年、おはよ」
「おはよ、じゃねぇよ。ぼんやりしすぎじゃねぇか、おっさん」
ユーリがこちらの顔を覗き込んでくる。何かを探ろうとするその目に心配の気配を察し、レイヴンは少したじろいだ。
「や、なんか、綺麗じゃない?おっさん、寒いところ苦手であんまり見る機会なかったから新鮮で」
「まぁ…そうだな。俺もこんなのは初めてだ」
ユーリはそのまま、寝ずの番をしていた焚火の前までレイヴンを引っ張ってくると、隣に座らせた。
沸かしていたお湯で、温かい飲み物を入れてくれる。
すごく甘い香り。
「ほれ」
「……青年、おっさん甘いの苦手なんだけど?」
「いいから、身体あったまるぜ」
ユーリはニヤリと意地悪く笑った。
レイヴンは渋い顔のままありがたく一口いただき、甘さに辟易した風に、舌を出してみせた。
「ははっ」
ユーリが嬉しそうに笑う。
レイヴンは内心、ホッと安堵の息をついた。
ユーリは心臓魔導器の事を知ってから、時々こうして気にかけてくるようになった。
面倒見が良く、ほっとけない性格のせいだろう。
(一回りも年上のおっさんを、心配もないだろうに)
優しくされると、どうして良いかわからなくなる。
なので、これくらいのやりとりの方が、レイヴンは心地よく、安心できるのであった。
ユーリの方をチラリと見ると、ひどく嬉しそうな表情で、目の前の景色を眺めていた。
レイヴンも同じように前を見る。
特に言葉を交わすでもない無言の時間だが、こうして同じ風景を見て、同じように綺麗だなと思う、体験と感情を共有していると思える瞬間は、心地よくもむず痒い。
焚火と飲み物と、隣に何故かほぼゼロ距離で座るユーリのおかげで、寒さを感じないどころか、何やらポカポカ温かい。
(凍える朝も悪くない、か…)
レイヴンはこの、奇跡の風景と、貴重で温かな体験を、決して忘れまいと脳裏に刻むのであった。
光と影(914.6)
ロードス島戦記の「宿命の魔術師」というカセットブックをご存知の方、いらっしゃいますでしょうか。
私はこれが大好きで、カセットからMD、その後ウォークマンに落として、いまだに聞けるようにしてあるくらいなのですが。
(年齢がバレる)
ロードス島戦記の外伝的なもので、主人公パーティにいる天才魔術師のスレインが、旧友の招きに応じて出かけたところ、罠に嵌められて、というお話。
ネタバレであらすじを全部言ってしまうと、ナウシカで言うところの巨神兵のようなものを封じ込めた壺に閉じ込められ、出る方法はあるが、巨神兵も解き放ってしまうというピンチに陥ったスレインが、それでもチートな奥さんの力を借りて何とかしちゃう、というお話なのですが。
その、旧友のひねくれ具合が。
とても心に刺さるんです。
どんなに努力しても勝てない。
飄々とトップの座に君臨する天才。
かつ、能力をひけらかさない人格者。
権力欲がなく、能力相応の地位を望まない男。
自分は常にNo.2。
今で言うと呪術廻戦の夏油的な。
彼は、親友かつライバルというポジションにいながら、常に敵わない事に打ちのめされていて。
友情を信じてまんまと罠に嵌まったスレインに高笑いしながら、そんな過去の自分の事を、
「太陽の存在なくしては輝けん月だったのさ」
と言うんです。
自らは輝けず、他人の光で認知され、認められ、綺麗だねぇと褒められる。
その悲しさたるや。
それが、当時の自分には刺さりまくりましてねぇ。
光と影。
そんな事を思い出したお題でございました。
そして、(914.6)
引っ越し族だった。
小学生の頃が一番大変だった。
子供は無知で正直で残酷だから。
自分とは異なるものを、己の正義で正そうとし、嘲笑う。
関西から関東に引っ越してきた時、喋るたびに笑われた。
単語が違う、イントネーションが違うと。
同じ日本語なのに。
関西圏では正しい言葉なのに。
それ、笑うところ?!
通じない単語ならまだしも、イントネーションなんぞ、通じれば何でも良くない?!?!
そして、
その経験のおかげで、
好き嫌いはあれど、多様性を認め、他人を否定しない、いくらかマシな人間になれたと思う。
ーーーーー
追加
そして、(オリジナル)
コンプラ違反で稼ぎ頭がクビになった。
情報漏洩でIT人材がクビになった。
パワハラで人が病んで辞めた。
セクハラを訴えて事務員が辞めた。
SNSで拡散され、捜査が入った。
主任がパワハラでクビになった。
副社長がセクハラで解雇になった。
時給1130円で土日夜勤可の経験者募集するも来ず。
激務に1人辞め、2人辞め。
給料の未払いで社長一家が夜逃げ。
そして、
誰もいなくなった。
tiny love(914.6)
私は鳥が好きだ。
犬派か猫派かと聞かれれば、鳥派だと答える。
ちなみに、
ガンダム派とエヴァ派なら、銀英伝派。
クラスに二大勢力あれば、常に第三勢力。
飼っていた動物を好きになりがちなのか、
好きだから飼うのか(卵が先か鶏が先か問題)。
はたまた、
争いを好まず、王道から外れた生き方をよしとする性格ゆえか。
単なる天の邪鬼か。
閑話休題。
鳥のうち特に、
小さくて頭がつるつるしている子が好きだ。
なでなでしたくなるキュートさがある。
カモなどの水鳥も好きだ。
頭だけ潜って、水面に可愛いおちりが突き立っているのも可愛いし、頭の位置を戻した時に、水滴が、頭と体を伝ってつるんと流れ落ちるもいとをかし。
優雅に進んでいるように見えて、水面下で必死に足を動かしているのも、地上ではよろよろよたよた歩きになるのもまた可愛い。
鳥の、少しお馬鹿な感じも良き。
tiny love。
おもてなし(TOV)
宿に戻ったユーリの目に、異様な光景が飛び込んできた。
宿併設の食堂にリタがいたのだが、その目の前の食卓に、ケーキやクレープなどの甘い菓子がずらっと並んでいたのだ。
甘いものに目がないユーリとしては、頬が緩まざるを得ない。が。
「どうしたよ、これ」
リタは肩をすくめて目線をやった。
そこには、満面の笑みを浮かべた、エプロン姿のレイヴンがいた。
「青年、お帰り。待ってたわよ〜。さあさあ!座って!おっさん頑張っちゃった!日頃の感謝をこめて♡め・し・あ・が・れ♡」
胡散臭さ満載の笑顔と態度である。
ユーリは眉をひそめた。
「何やらかしたんだ?おっさん」
「え、な、何って?」
「おかしいだろ。急に。なんか謝らなきゃならん事でもしでかしたのか?どうせすぐバレるんだからさっさと吐いちまった方がいいぜ」
「ひっ、ひどっ!まだ何もしちゃいないわよ〜」
「まだ?」
「せ、青年、甘いもの好きでしょ」
「そりゃ好きだが…」
あからさまに話を逸らしに来ている。
何の理由もなくこれほどの菓子をせっせと作るはずもない。
ユーリはしばし考え、
「そっか。じゃあ純粋に感謝のおもてなしってわけで、食べた後で、謝罪もお願いもないんだな?」
そう詰めると、レイヴンはグッと言葉に詰まった様子であった。
(やっぱりか)
ユーリは席に着き、クレープを手に取った。
(美味い)
レイヴンの手作りだった。
「ううう…そんな事言われたら白状するしかないじゃない」
レイヴンはしばし唸っていたが、覚悟を決めてそう言った。ユーリの横に来て正座をし、手のひらを合わせて頭上に差し上げる。
「青年!お願い!この後一緒に酒場につきあって!」
「なんで」
「いや〜今日出会った、とっても素敵なお姉さんがさぁ〜青年を連れて来たら一緒に飲んでくれるっていうからぁ」
そう、ヘラリと笑った。
期待を裏切らないレイヴンらしい理由に、ふたりは心底呆れた。
「馬鹿っぽい…」
「裏事情しかねぇじゃねぇか。俺は釣り餌か」
「そ、そんな事思ってないわよ?!」
「じゃあ、どういうつもりだよ」
「そ、そもそも!!青年がフェロモン垂れ流しで歩いてるのがいけないのよ!」
「はぁ?」
「お姉さん、街中で青年見かけたらしいけど声かけらんなかったって、一緒にいたおっさんに声かけてきたんだもん。俺様の魅力を存分にお伝えして、夜一緒に飲みませんかって誘ったら、青年が来るならって…」
勢いの良かったレイヴンの声が、みるみる萎んでいく。
話を聞いていたふたりは、哀れみの目でレイヴンを見た。
「それ、普通にお断りされてるじゃん」
「モテねぇんだな、おっさん」
「ううう、傷つく」
レイヴンは肩を落とし、泣き真似をした。
気持ち的には本当に、少し泣いていたかもしれない。
その後、レイヴンの賄賂目的の手作りお菓子は、次々帰ってきた他の仲間のお腹におさまった。事情を知らないカロルやエステルから感謝され、少し報われた気持ちになるレイヴンなのであった。
裏ばっかり=表なし
思ってない=思てなし
モテない=おモテなし