花とコトリ

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12/11/2025, 2:12:35 PM

夜空を超えて

この街の屋根の向こう、星が流れる。
今日という一日が終わった場所。
ベランダに出ると、クロがついてきた。
夜の冷たさとは無縁の、
あたたかい毛並みが足に触れる。

「クロ、あそこだよ」

指差す先に、銀色の月。
まるで、誰かの落とした大きなコインみたいだ。

クロは空を見上げない。
わたしの顔を見る。
たぶん、この子の宇宙はわたしの腕の中にある。

わたしが夜空の遥か遠くに心を飛ばすとき、
クロは地面にいる。
けれど、それでいい。

わたしの「超えて」ゆく想いと、
クロの「ここにいるよ」という体温。
そのふたつが、
この夜を一番、穏やかな場所にしてくれる。

12/10/2025, 1:21:30 PM

「ぬくもりの記憶 」

雨上がりの午後、窓を叩く音が遠い記憶の扉を開けた。あの日の匂い。クロの毛の、乾いた草のような、少し土っぽいぬくもり。

ソファの角で丸くなるクロの、時折小さく震える呼吸を聞きながら、私は冷めたコーヒーをすすった。いつだって、このカップの白さと液体の黒さは、私を静かな思考へと連れ去る。

クロが老いて、眠る時間が長くなった。指先に感じるゴツゴツとした背骨の感触が、そのまま時間というものの手触りのように思える。

コーヒーの苦味の奥に、いつも彼の存在があった。
特別なことは何もない。ただ、そこにいるということが、私の世界に確かな熱を置いていく。

もし、このぬくもりがいつか遠いものになったとしても、私の手のひらは、きっとこの穏やかな重さを永遠に覚えているだろう。

12/9/2025, 2:39:17 PM

凍える指先と、クロの温もり

この冬一番の冷え込みが、窓ガラスを細かく叩く夜。

暖房をつけた部屋の中でも、
キーボードを打つ指先だけは、
もう随分前から氷みたいに冷たくなっている。
まるで、私だけ別の季節にいるみたいだ。

「大丈夫かい?」

そう言ってくれる声があればいいのに、
聞こえるのは時折聞こえる、愛犬クロの寝息だけ。
毛布にくるまって丸くなった黒い塊は、
たったそれだけで、
部屋の空気をふわりと暖かくしてくれる。

さっき淹れたはずのコーヒーも、
カップの中でもうすっかり冷たくなって、
湯気一つ立てていない。

それでも、一口飲む。
苦い、けれど、体には沁みる。

凍えた指先を、
クロのやわらかい頭にそっと乗せてみる。
温かい。
この温かさがあれば、もう少し、
この静かで冷たい夜と付き合っていける気がする。

12/6/2025, 2:44:32 PM

「消えない灯り」

夜のしじま。
電気を消しても、窓から微かに届く月の光が、
床にいるクロの輪郭を優しく縁取る。

もうずいぶん長く一緒にいる。
彼が私を見つめる、あの潤んだ黒い瞳。
その奥にある純粋な信頼は、
どんな嵐の中でも揺るがない、
私の心の底で灯り続ける小さな炎だ。

ふと、自分の手のひらを広げてみる。
何かを掴んでいるわけではないけれど、
そこにはいつも、
クロの温もりがあるような気がする。

いつか、すべてが変わってしまう日が来るだろう。
それでも、この「愛されていた」という事実は、
消しゴムでも消せないインクのように、
私の人生という紙に深く染みついている。

クロ、お前は本当に、私の消えない灯りだ。

12/1/2025, 2:22:35 PM

凍てつく星空

夜の庭に出た。
シンとして、息が白い。
肌に触れる空気は、痛いくらい冷たい。

見上げた空。
凍てついた星々が、
まるで砕けたガラスのように、
鋭く、そして果てしなく遠く光っている。
何億年も前の光が、
いま、わたしの目に届いている。
その途方もない時間の長さに、
わたしという存在の小ささを思う。

ふと足元を見ると、
クロが丸くなってわたしの足に寄り添っている。
もふもふした、小さな温かいかたまり。
宇宙の冷たさとは対極にある、
この確かなぬくもり。

世界はこんなにも大きくて、
凍てついているのに、
わたしはたったひとつの生命のそばで、
こんなにも温かい。

クロの吐息の温度。
このぬくもりこそが、宇宙への返事。

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