『お好きなリボンを結んでください』
看板には、こう書いてある。
目の前には色とりどりのリボンが並んでいる。遙か遠くまで、真っ直ぐに伸びていくリボンの先はどうなっているのだろう?
「こちらは、貴方さまの未来です。」
と、後ろから声をかけられ、ボクは振り向いた。そこには、大きな白い帽子をかぶった猫が立っていた。びっくりして大声をあげそうになったけど、ボクは何だかその猫とどこかで会ったことがあるような気がして、ひとまず深呼吸した。深呼吸をするのが、ボクの唯一のリラックス方法なのだ。
「えーっと、未来、というのは、ボクにこれから起こること、っていう未来、ですか?」
訳が分からない状況ためか、質問も微妙に訳が分からない聞き方だったが、そうでございます、と丁寧に猫は答えてくれた。
「いま、ここから、貴方さまの未来は決まります。今回は特別にこのリボンの中から未来が選べる!というキャンペーン中でございます。見事貴方さまがそれに当選なさったのでございます。さっ、お好きなリボンをお選びください。」
猫はそういって、ボクの手をひき、ずらって並ぶリボンの前に立たせた。
なるほどー、と思いつつも、そんなキャンペーンに応募した覚えもないし、どこが主催してるんだ、そのキャンペーンは?とか、考え始めたら?マークがたくさんでてきてしまいそうなので、ひとまずまた深呼吸をして、とにかくリボンを選んでしまうことにした。どうせ、ボク未来なんて、どうなったっていいのだ。
ボクは右端まで歩いて(結構長かった)、そこにある黒いリボンを選んだ。それをみた猫は、リボンを結ぶようにボクに指示した。場所はどこでもいいらしい。ボクは右足にクルクルとリボンを巻きつけ、丁寧にリボン結びをした。実は昔からリボン結びが得意なのだ。
「では、目を閉じてください。あとは、貴方さまのお好きなリラックス方法で、そのときがくるまでお待ちください。」
猫はそう言い、ボクをじっと見つめて、ニッコリと笑った。ボクは言われたとおり、目を閉じ、深呼吸をした。
🎀🎀🎀
光があたっていることに気づき、目を開けると、ボクは病院のベッドの上にいた。ぼんやり記憶を辿る。ああ、そうだった。なにもかもイヤになってボクは死のうとしたんだった。でも、死ねなかったんだな。痛む身体を起こして窓の外をみると、一匹の猫がこちらをのぞいていた。なんとなく見たことがあるような…
目が合うと、その猫は、にゃ~ん、と大きく鳴いた。
あとから聞いた看護師さんの話によると、ボクは病院の前で発見されたとのこと。夜遅く、玄関先で猫がやけに大声で鳴いているなあ、と思い行ってみたら、倒れているボクの横で大声で鳴き続ける猫がいて、みな大慌てだったらしい。
それを聞いて、ボクは未来のリボンのことを思い出し、あれは夢ではなかったのかなもな、と感じた。なぜなら、病院のベッドの上で目覚めたときに、窓の外にいた猫は白い帽子をかぶったような柄をしていたから。そして、倒れていたボクの横で助けを呼んで鳴き続けてくれた猫も、同じ柄だったそうだから。
ありがとう。
本当に、ありがとう。
また、あの猫に会えるかな。
光の輪が輝いていて、あまりにもキレイだったから、思わずボクは手をのばしたんだよ。それは、キラキラとまわりながら近寄ってきてさ、よくみるとたくさんの粒でできていたんだ。で、輪から形を変えて、ボクの手を包み込んで、ふわっとした温かさを残して消えちゃったんだよ。
ボクはそっと手のひらをのぞいてみたんだ。そしたら、ちいさなちいさな万華鏡があったんだよ。かわいい模様の七色の万華鏡。中をのぞけるかな?ってちょっとみてみたらね、不思議不思議、ボクはその中に入っちゃったんだ。でね、小さい頃の夢の宇宙飛行士になっていた。宇宙空間を漂っていたんだよ、びっくりしたなあ。びっくりしたけど、宇宙は美しくて、壮大で、とにかくそのままでいたくて、しばらくぼーっと身を任せていたんだよ。
するとね、宇宙船がやってきて、ボクに乗るように言ったんだ。乗り方分からないなあ、と思った瞬間には宇宙船の中にいたんだ。面白いよねえ。でさ、中にはみたこともない生き物がいてね、こわくはないんだよ、すごくあたたかい感じがするからね、いろいろボクに見せてくれたんだ。ボクがこれからなれる未来を。たくさんの可能性を。すごかったな、なんでもできるし、なんにでもなれるんだ、って思ったよ。
どうやって戻ってきたのか、って?それがさ、ボクも分からないんだよ。気づいたら光の輪をみつけた場所にいたんだから。結構長い時間、宇宙船にいたと感じたんだけどね、時間は全く経っていなかったんだ。
え?
立ったまま寝ちゃったんじゃないか、って?
ははは、そうかもね~。
でもさあ、だったらすごくリアルな夢だよねえ。
ああ、あの万華鏡、またのぞいてみたいなあ。
わたしの話を聞いてくださるのですか?
ありがとうございます。
『わたしは、たまに、いままで出会ってきた人たちを思い出すことがあります。もう二度とあうことはないとおもいますが…
はなればなれになってしまったあの人たちは(正確には私からさよならしたのだけれど)、いま笑っているのかな?泣いているかな?誰かといるのか?ひとりなのか?と
いまのわたしは、笑っているように見えるでしょうか?笑顔つくるのが得意なのでね。でも、本当は泣いているのです。ずっと。心はいつも泣いています。
わたしは、酷くワガママで、自分勝手でした。偽りの愛情で周りを不幸にしてきました。もしかしたら、それは思い込みかもしれないけれど、誰かといると、わたしはその人たちを苦しめてしまうのです。
結局わたしは、わたしが一番大切で周りなんてどうでもいい。腹の底ではそう考えていたのですね。たぶん。
それに気づいたとき、恥ずかしく恥ずかしくて死にたくなりました。でも、死ねなかったのです。わたしは、死ぬこともできない、情けない存在です。
わたしは、わたしが生きていていいのか、いつも考えます。
わたしは、わたしが死んでいい理由をいつも考えます。
わたしは、わたしが生まれた意味をいつも考えます。
わたしは、わたしのことを認めたい、でも認めることができないままで、います。
わたしの話を聞いて、バカみたい、あまりにもおかしい、など、不快に思われましたでしょう。本当に申し訳ありません。わたしは本当にくだらない人間で…
まあ…
この広い世の中には、生まれてからずっと生きづらくて、こんなくだらないことばかり考えている、わたしのようなおかしなものもいるのですよ。』
ひさびさにわたしのことを人に話しました。話していて、わたしもいい気分にはなりませんでしたね。本当にくだらない話を聞いてくださって、ありがとうございました。
「わあ!これが雪なの?きれいだねえ。」
南国で育った君は、目をキラキラさせて言ったっけ。それから、はあーっと白い息を吐いて、楽しそうに歩きはじめたんだよな。可愛かったな。
それは、″大人になるまでには雪をみたい″という君の願いが、ギリギリに叶った日だったんだよ。嬉しそうだったな。
寒いのが苦手なくせにさ、コートも羽織らず外に飛び出しちゃって。鼻のアタマを真っ赤にして、満面の笑みで僕に言ったんだよな。
「19才の誕生日の朝に、雪が降るなんて!なんて素敵なプレゼント!」
って。大はしゃぎであちこち走りまわる君の姿が、本当に本当に愛おしかった。
❄❄❄
静まりかえる雪の朝に、僕はひとりコーヒーを飲みながら、君を思い出す。
ずっと一緒にいることはできなかったけれど、君との記憶は、すべてあたたかい。
映画館のスクリーンいっぱいにひろがる、ボクの笑顔。こんな風にみえていたんだなあ、と少し気恥ずかしい。自分の顔ながら、だいぶ優しい表情だ。そりゃそうだ、ボクはキミが大好きだったから。キミをみるたび嬉しくて愛おしくて、いつも笑っていたと思う。
キミが天国にいってしまった夜、あまりに悲しすぎてボクは星空のした、あてもなく歩いていた。気がつくと知らない公園にいて、ボクはなんとなくブランコに座った。ゆらゆらゆれながら、涙が頬をつたっていくのを感じた。目を瞑ると、キラキラしたキミの笑い顔が浮かんでくる。どうしてこんなことになるのか、もう二度とキミに会えないのか、といろんな気持ちがぐるぐるし、ボクはブランコをおり、地面に座り込んだ。
とんとん、と肩を叩かれ顔を上げると、知らない少女が立っていた。
「ついてきて。」
と、その少女はひと言だけ言葉を発し、歩きはじめた。ボクは、言われるがままついていった。着いたのは、町外れの古びた映画館だった。ボロボロの椅子にボクを座らせ、少女はどこかにいってしまった。
しばらくすると、スクリーンが明るくなり、何かが始まった。古い映画だろうか?
『○○の夢』
タイトルは、キミの名前だった。びっくりしたボクは身を乗り出し、続きを見守った。次々と映し出されたのは、ボクの笑顔だった。キミを笑顔でみつめるボク。話ながら笑うボク。どれもキミからみたボクの顔なんだ、と気づいたとき、涙が溢れ止まらなくなった。ああ、キミもこんなにボクのことを想っていてくれていたんだね。涙でスクリーンが見えづらかったけど、最後まで全てボクの顔だった。
「○○、ありがとう。」
と、ボクはちいさくつぶやいた。