その喫茶店は、1年前くらいにオープンした。毎日というほど通っている、ボクのお気に入りの店だ。
「I LOVE...」という、お洒落な名前のその店は、近所の若者に大人気である。特にランチがボリュームがあって、育ち盛りの男子も大満足!のメニューも多い。が、ボクは小食で静かな方が好きなため、モーニングの時間に通うことにしている。
店のドアを開けると、
「おはよう!」
と、いつもの明るい声が聞こえた。キッチンにいた店主がボクに微笑んでいるのが見えた。ボクは手をあげて挨拶をする。
店主である彼女の気さくな感じがボクのお気に入りポイントのひとつでもある。
今日は、モーニングでも珍しく店内が少々賑やかだった。この店は、店主である彼女が1人で切り盛りしているため、混み具合によっては、客同士が助け合って料理を運んだりする。そんな、とてもアットホームなところも、ボクのお気に入りのひとつなのだ。
モーニングは一種類。
分厚いトーストに、スクランブルエッグ、飲み物はコーヒーか紅茶が選べる。コーヒー派のボクは、いつもホットコーヒーだ。
この分厚いトーストが、ボクの1番のお気に入りポイントで、本当に本当に美味しいのだ!
モーニングが運ばれてくると、ボクはさっそくトーストに手を伸ばす。そして、恥ずかしげもなく大きな口を開けてひとくちほおばる。すると、パンのほんのりした甘さとバターの塩気がじゅわ~っとまじりあって、口の中がしあわせいっぱいに。ふわもちっとした食感もたまらなくて...
ああ、うまい.....
しばし、至福の時を満喫すると、ボクはいつも読書をする。店内の混み具合にもよるのだが、だいたい30分くらいそこでゆっくりと過ごす。売り上げのために早く席をたつように促されたりしないところも、ボクのお気に入りポイントのひとつだ。
今日は少し混んでいるから、15分くらいで読書をやめ、会計をするために入り口に向かった。
「今日は早めに退席してくれて助かる!ありがとう!空いてるときは、思う存分ゆっくりしてってね!またお待ちしてますっ!」
店主はボクにそういい、おつりとおまけのキャンデーをひとつくれた。そういうところも、ボクのお気に入りポイントのひとつなのだ。
店を出ると、おひさまがぽかぽかして、だいぶ穏やかな気候だった。昨日は寒かったけど、だんだんと春が近づいてきているのだな、と思う。
さあ、今日もいい日だ。
預かったコインを握りしめて、ぼくたちは街へ走った。
いつものように森で遊んでいると、疲れ果て、ボロボロになった旅人に出くわした。飲まず食わずで1週間ほど道に迷っていたらしい。ぼくたちが差し出した水や食べ物を口にすると、旅人は少し元気がでたようだった。そして、1枚のコインをポケットから出し、体力回復に必要な薬草を街にいって買ってきてほしい、とぼくたちに言った。
ぼくたちは、街に着くと、薬草を売っている屋台を探した。この街には本当にたくさんの屋台があった。薬草を取り扱っているところはいくつかあったが、旅人に頼まれた薬草を売っているところはなかった。ぼくたちは、がっかりして街をあとにした。
森に近づくにつれ、なんだか様子がおかしいことに気づいた。握りしめていたコインが熱くなってきているのだ。ずっと手の中にあったせいかと思っていたが、どうやら違うらしい。手を広げ、コインを見ると、それはぐにゃぐにゃと形を変え、みるみるうちに美しい鳩になった。鳩は空高く舞いあがり、森の奥のほうへ飛んでいってしまった。
一瞬の出来事に、ぼくたちはあっけにとられ、しばらく立ち尽くした。薬草もコインもない。旅人になんて伝えよう…。
ぼくたちは、トボトボと足取り重く、旅人のいる場所へ向かって歩いた。
しかし、旅人はいなかった。
近くを探してみたが、どこにもいなかった。不思議なことに、そこに旅人がいた形跡が全くなかったのだった。
ぼくたちは、首をかしげた。
確かに会話をし、水などもあげた。
確かにコインも預かったのだ。
でもそのコインは、鳩になってしまったのだ。
もうなんだか分からなくなって、泣き出しそうになった時、ぼくたちの目の前に、ぱさり、と羽根が落ちてきた。びっくりして見上げると、そこには大きな羽根を広げた天使がぼくたちをみて微笑んでいた。
彼はこう言った。
「ありがとう。きみたちの美しい優しさで、わたしは、また光輝くことができます。」
そして、身体中から黄金の光を放ち、空高く空高く昇っていった。
その美しい姿をぼくたちは、光が見えなくなるまでずっとずっと見送った。
あとになってみないと わからない
不器用な 優しさも ある
あのひとは
とても 怖かったけど
いま 思えば
その 厳しさが
わたしを 強くした
あたたかく やわらかに
ふうわりと 包みこむような
優しさ では なかったから
その頃の わたしには
その 優しさが 理解できなかった
けれど
あのひとが 残してくれた
数々の 優しさが
いまのわたしを 助けてくれている
ありがとう。
真夜中0時ちょうどに、玄関のチャイムが鳴った。…ような気がした。
とても怖かったから、ボクは″気のせい″にすることにした。
…しかし、今度は枕元のスマホの着信音が鳴った。ボクは、寝るときは電源オフにしているから、あきらかに、おかしい。
さらに怖くなったから、ボクはまた″気のせい″にすることにした。
…だけど、次は寝ているボクの耳元で囁く声が聞こえた。小さくて聞こえにくいんだけど、どうやら″こんばんは″とずっと言っているようだ。
もうなんだか仕方がないから、ボクはありったけの勇気を振り絞って目を開けた。耳元にいたと思われるものが、そこにいた。正体は、小さな小さなピエロだった。
予想に反して、愛らしい顔つきをしていた。
「こんばんは!ミッドナイト、と申します。今夜はあなたのお誕生日に素敵なショーをプレゼントしに参りました。では、ご覧ください!」
と言い、小さな小さなピエロは、軽やかに宙を舞い、さらさらと花びらをまきながら踊り始めた。
鼻歌を歌いつつ手品をしたり、時におどけたり、彩り豊かなピエロのショーは、とてもとても楽しかった。
ショーを終えると、小さな小さなピエロは深々と一礼し、手をパン!と叩いた。すると、目の前に17本のロウソクがたったバースデーケーキが現れた。なんと、ボクの名前入りのメッセージプレートもついている。
ボクは、ロウソクの火をふーっ!っといっきに吹き消した。真っ暗闇の中から、今度は、手のひらサイズの箱が現れた。リボンをほどいて箱を開けると、そこには光る石が入っていた。角度によっては七色に輝く、キラキラと美しい石だった。
「この石は、あなたを一生お守りします。どうぞ、大切にいつも身につけていてくださいね。では、お誕生日おめでとうございます!素敵な日々が過ごせますよう、いつもお祈りしておりますね!ではおやすみなさい!」
小さな小さなピエロはこういうと、ポンッ!と消えてしまった。
……と、
目が覚めたら朝だった。
ああ、夢か。
不思議な夢だったな。
でも楽しかったなあ。
さて、今日は誕生日か。
いつものことだけど、誕生日でも何も変わらないな…
起きたくないけど、そろそろ支度をしないと遅刻してしまう、と布団から起き上がったボクが見たものは、布団の横にちょこん、と置いてある小さな箱だった。
そっと手に取り開けてみると、そこには夢でみたあの、キラキラと光る美しい石が入っていた。耳元で、誰かが、ふふふ と笑ったような気がした。
私が 安心するもの
あなたが 安心するもの
私が 不安になるもの
あなたが 不安になるもの
みんな それぞれ 違うから
互いの好みを 責めず
自分の好みを 押しつけすぎず
そうなんだね
それもいいね
って
かるーく
優しーく
受けとめられたら いいな