贈り物の中身
【凍てつく星空】
【君と紡ぐ物語】
愛しい人に愛を囁く。
それはとても甘美な夢。
身が震えるほどの恍惚を、愛しい人から与えられたなら、天に召されても悔いはない。
繋ぎ止める為の睦言は甘く耳を擽る。
誘われるように愛しい人の唇を優しく食めば、その白い肌に羞恥の紅がさす。
愛しくも優しい人に幸せを。
薄汚れてしまった身体を綺麗にするのだと張り切るのは、それはそれは懐の深い温情が溢れんばかりで。
涙が出るほど幸せが押し寄せてくる。
気紛れでも構わない。
たくさん使って喜んでくれるのならば、全てを捧げてしまいたい。
愛しい人の為ならば、どんな睦言も夢も物語も紡ぐ事が出来るのだ。
【霜降る朝】
「…かっちゃん!来て!凄いよ、外!」
足音も賑やかに飛び込んで来るあなたを何事かと、自室に迎え入れた。
「おはよう。どうしたの?」
これは外に出る流れかと予測して、厚めの上着を掴んだ。
「はつもの!」
厚着を選んでいて良かったと内心ホッとしつつ、元気なあなたの手に引かれるまま、ついて行く。
玄関で、雨の日用の靴に履き替えて、外へ出て行くと、霜柱がキラキラと立ち上がっていた。
「はつしも!かっちゃん、踏むよ!」
無邪気にはしゃぐあなたの靴が、地表を押し上げる霜柱を踏みしめていく。
「すごい音!」
バリバリと音を立てながら、あなたの足がステップを踏む。
「かっちゃんも!」
そっと足を踏み出すと、サクサクとした感触が靴裏に響く。
ザクザクと踏み締める音を立てながら、あなたが戻ってくる。
「かっちゃん!あっち、まだ踏んでないから!行こう!」
あなたから差し伸べられた手を取ると、そのまま引っ張られてついて行く。
「凄い音…。」
童心に返ってはしゃぐあなたの背中が、ひどく楽しげで自分まで楽しくなってくる。
【君が隠した鍵】
「…失くした?」
申し訳なさそうな表情のあなたが、腕の中の小箱を見下ろしている。
「鍵、失くした。だから…。ごめん。」
こどもの時分から、ずっとあなたの宝物が入っている、それはもう大切にされてきた鍵付きの小箱。
「あぁ、そっか。無理、言ったね。ごめん、無神経だった。」
自分が見たいなんて言ったからだ。
「…違う。本当に、失くして!」
青褪めていくあなたの頬が、生白く部屋の照明を弾く。
「大丈夫だよ、かっちゃん。気にしないで。気軽に見せてもらう物じゃなかったよね。ごめんなさい。」
踏み込み過ぎてしまった事を反省して、動揺しているあなたの背中をゆっくりと撫でる。
「ほら、座って?かっちゃん。その鍵、外には持ち出さないでしょう?きっと家の中にあるよ。大丈夫、ちょっとお出掛けしてるだけなんだよ。」
ぎゅうと所在なげなあなたを抱き締めて、背中をぽんぽんと叩く。
「…思い出せない。何処に仕舞ったか全っ然!」
この世の終わりの様な表情で、自分を叱責し始めそうなあなたを抱き締め続けた。
「今日は開ける必要がないって事だよ。小箱さんが、そう思ってるの。今じゃない、って事。」
余裕がなくて、暫く触れていなかったこともあって、あなたは酷く動揺している。
「―――っ!見せたくない訳じゃないのに!」
情緒不安定な精神状態の時に、して良い話では無かった。
「うん、ありがとう。小箱さんが良いよ、って言ってくれるまで待つよ。また今度にしよう。ね?かっちゃん。」
小箱を投げ棄てそうになるあなたの手から小箱を引き取って、ソファの隅にそっと置いた。
(オレが焦ってどうするよ。)
あなたが落ち着くまで傍に居て、ゆっくりと宥める。