「安心と不安」
ようやく。
一区切り、つけた形。
こちらは答えを渡したつもりだけれど…。
さて、あちらはどう応じるか。
問いかけと取るか、憤りを突き付けてくるのか。
答えは出ない。
さいは投げられた。
人事を尽くして天命を待つ。
案じていた思いは、一度安心に変わって、
不安を寄越してくる。
とにかく、穏便に済ませたいのに…。
危険予測の為の想像力が逞しくなった所為で、少しの不安を拾って増幅させてくる。
わたしは、もっとおおらかだったハズなのに。
あぁ、あの頃のわたしを返して欲しい。
「逆光」
眼の前に竚む人影。
『あなたは、誰?』
呼び掛けても返事はない。
『あの、ここは…?』
尋ねても返事はない。
〈そうね。ここは、ここ。わたしは、あなた。そう応えるべきかしらね。〉
顔も見えない。表情は分からない。
眩し過ぎる光源を背にして、視線の先の何かを見上げている様だったけれど、その人影が何を見ているのかは、振り返っても分からなかった。
〈ようやく…。ここへ、辿り着いたのね。〉
悲しげな声が、ホッとした様に零れ落ちて来た。
《良かった、また逢えた。》
2つの声が、同じ言葉を紡いだ。
あぁ、ここは夢の中だ。
そして、いつかの、あの日の私たちだ。
《良く、頑張ったね。私たち。》
さぁ、始まりの日にしよう。
「こんな夢を見た」
良い夢?悪い夢?
どんな夢でも夢は夢だけれど、
時々、摩訶不思議な夢を見ることがある。
その日は、懐かしい私に出会った。
〈なにをしてるの?〉
幼い頃のあどけない顔をした私がそこに。
『遊んでるの。おねぇさんは?』
急に風が吹き始めた。
〈何を、したかったのかな?〉
幼い頃の私が、キャッキャと笑う。
『変なの!でも、楽しかった?』
小枝を持って、地面に何かを描き始める幼子が、楽しそうに落書きをしている。
〈うーん…。楽しかったかもしれないし、辛かったかも。〉
落書きする幼子の隣に腰を落として、膝に肘を当てて頬杖を付くように見上げた空は青くて、クジラの様な形をした雲がふわふわと浮かんでいた。
『ふぅん。よくわかんないや。…あっ!クジラだ!ドコに行くのかな?』
幼子が立ち上がって、嬉しそうに雲を指さした。
〈ふふふ、クジラだね。きっと、何処までも行けるよ。自由にね。〉
隣ではしゃぐ幼子が、私の肘と手首を掴んで、立ってとせがむ。
『ねぇ、追いかけよう!』
グイグイと引かれるまま、つられるように立ち上がって、そっと幼子の手を握った。
「特別な夜」
特別な夜って、何だろう?
とっても想像が膨らむ言葉。
気の置けない友人たちと過ごす時間?
美味しいご飯とお酒の時間?
素敵な人とのランデブー?
愛しい人とのオトナの時間?
きっとどれも特別で大切で、忘れられない夜の事なんだろうな。
※閲覧注意※
IF歴史、タイムトラベラーなモブが居る。
意味不明な世界線。自分だけが楽しい。
《海の底》
沈むしかない。
未来は変えられない。
顛末を知っている者から見れば、海底に沈む運命と断言するべき状況。
その背を推してやるのが餞とさえ思える程に。
何故、あなたが沈まなければならないのか。
あぁ、あなたを救う術はないのか。
愛しい人を、未来ある筈の幼子を、時代と言う名の奔流が押し流していくのを、ただ茫然と見送るしかないのか。
『海の底にも、都はあります。』
時代の勝者か、あるいは後世に記されたであろう伝記の胡散臭い台詞が、耳朶をざわつかせる。
「…なんだかなぁ。」
遣る瀬無く見上げた空は、抜けるように青かった。
良い天気だ、なんて呑気な感想が隣から聴こえてきて、いよいよ身震いした。
「それ、今?アンタが言う?」
呑気な感想を述べた当の本人は、何か問題でもあるのかと嘯いている。
「あー、別に。個人的に、あんま聴きたくなかったなぁ、ってだけ。」
おかしなヤツ認定されている為、また妙な独り言かと、相手は処理した様だった。
『折を見て、木船に乗れ。』
《お前は連れて行かない。》
そう言い切った背中は、いつも通り高揚していて、いつもよりは少しばかり小さく見えた。
「アンタも、楽しんで来なよ。」
小さく呟いて、『最期の宴』に向かう背中を見送った。