「魔法が使えそうな夜だねぇ。」
「今日は綺麗な満月だよ」と君に教えてもらったので、そう返した。言ったあとでちょっと恥ずかしくなったが、語尾に「!」までついた同意が返ってきて嬉しくなる。子供じみた発想でも決して馬鹿にしないところが、私が君に惹かれた理由の一つである。
どんな魔法を使いたい?と聞くと、空を飛んでみたいという答えが返ってきた。
いいね、空中散歩。うわ最高。いつかしようね。したいね。
そんな会話が続く。
まあ非現実的で不可能なのは二人とも重々承知しているが、想像上では自由だ。絶対楽しい、空のお散歩なんて。しかも君と二人。
きっと周りには誰もいないから、お互いの好きな歌でも歌いながら、流れ星を探しに行こう。
そんな空想の中で私は、君と飛び立つ。
終わらない夏よりも
あの日感じた幸せを
また感じられる日が
来ますように。
「あのさー、お願いがあるんだけど。」
「ん?」
「なんか美味しいもの食べたりどっか行ったりしたら、どんどん教えてほしいwそういうの知るの楽しいからさぁ。」
「わかったw」
君は今でも、律儀にこの約束を守ってくれている。
うまそうな飯。味の想像もつかない食べ物。行ったことがある場所。行ったことのない場所。単純にワクワクするので聞きたいという理由が大きいが、君の目を通してそれらを知るのが楽しい。そして嬉しいのだ。
私の喜びが、君の見た景色の分だけ、増えている。
言葉にならないものは何だと考えたとき、
美しいものを思い浮かべられる自分であれ。
あの頃の夏休み、ひたすらのめり込んでいたことがあった。
お絵かきだ。
物心ついたときから絵ばっかり描いていた私だが、あのときは全盛期だった。
オリジナルキャラクターたちをひたすら描きまくっていた。設定を考えたり、オリキャラ同士で絡ませたり、世界観を構築したりするのが何よりも楽しかった。
もはや彼らは、私のかけがえのない友達だったのだ。
イヤホンをつけて、好きな音楽をリピートしながら、ひたすら絵を描く。
そんな夏休みだった。
今でもそのとき聴いていた曲を聴くと、思い出す。絵を描くことが世界のすべてであったかのような、あの真夏の記憶を。