君を好きだなと思う瞬間が、何度も何度も、何度もあった。
それら一つひとつは、ちいさな、本当にちいさなものだった。
だけど、気づいたら、もう戻れないところまで来ていた。
降り積もる想い
あたたかい手のひら。
細くてかたい指。
爪の感触が好きで、何度も撫でる。
パズルのように組み合わせた指。
指の間にかかる圧力が心地良い。
君がくれる、大好きな贈り物。
「手のひらの贈り物」
心の片隅で、本当の優しさを信じる。
心の片隅で、純粋な優しさを疑う。
心の片隅で、世界を憎悪する。
心の片隅で、あいつに嫌なことがありますようにと祈る。
心の片隅で、もう会うこともないあの子の幸せを祈る。
心の片隅で、黒いしあわせを抱いて泣く。
心の片隅で、もう二度と味わえない空気を吸う。
心の片隅で、眠っている原石に布団をかける。
心の片隅で、今日がはじまったと嘆く。
心の片隅で、今日がはじまったと歓喜する。
心の片隅で、誰かのしあわせを願う。
心の片隅で、
冬になると、思い出すことがある。
小さい頃。
これくらいの季節になると、大抵は足が氷のように冷えていた。
冷たいフローリングをぺたぺたと、おてんばに駆けずり回っていたからだろうか。
単に冷え性だったからだろうか。
そんな状態で布団に入ると、同じ布団で寝ている母に「つっめた!!!」とよく言われたものだ。
けれども氷のような私の足を、母は自分の足をくっつけてあたためてくれた。
当時はあったかいなぁ、程度にしか感じていなかったが、今になったら分かる。
それがどれだけ、あたたかなことか。
ぬくもりの記憶
寒い。
昼休み、しんとした別棟の教室で、一人お弁当を食べる。やはり母の作る飯はうまい。
コートを着てはいるが、指や首の隙間から冷気が押し寄せてくる。小刻みに震えが来る。みじめだ。
全部、自分のせいなのだけども。
友達を作ることも、自分を誇ることもできない、半端者の自分のせいなのだけども。
けれど、自分の人生を楽しくするのも、つまらなくするのも、全部自分だから。
変わってみせる。
絶対こんな自分、変えてみせる。
楽しい人生に、してみせる。
そう決心して、私はハンバーグを頬張った。