入木

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11/4/2025, 2:25:49 PM

遠ざかる音を聞いていた。
銀杏の枯葉を踏む音を
思わず伸ばした手は、
彼女の細い腕を掴んだ。
容易く折れてしまいそうな、
皮と骨だけの掴まれた腕を彼女は上げて、
「これは何のつもり?」
と酷く不快そうな顔で私に言った。
理由など無かった、
ただ、伸ばさなければ、
ただ、掴まなければ、
ここに踏みとどまらせなければ、
二度とは会えない気がして、
咄嗟に手を伸ばした。
繋ぎ止めるように、縛るように。
「ふざけないで」
端正な、青白い顔を顰めさせて、
「私は私の物よ、他の誰でもない、
ただ私だけのもの」
怒りに満ちた声はそれでもか細く、
体の弱りを露呈して、
「どうするかは私が決める、
私だけの意思で、私だけの理由で、
私だけの価値で、私だけの行動で」
それでも、それは強さに満ちて。
私の楔など引き千切る程度には。
「私は私だけの為に生きるの、
だから散り方も私が決める」
放たれた彼女は枯葉を踏んで、去っていく。
楽しげに不安定なダンスの様に。
「始まりは選べなかった、育ちは選べなかった、
習い事も、趣味も、勉強も、友達も、恋人も」
くるりと振り向いて彼女は、
「でも、最後だけは私のものだ」
せいせいとした顔で笑った。

#キンモクセイ

4/30/2025, 3:01:58 PM

放り投げた石の様な物で、
私の明日は容易く落ちるのです。
意思は薄弱に弧を描いて落ちるのです。

日は落ちてはまた登るように、
日々は繰り返して。
罅は身体を廻るのです。

軌跡は弧を描いて。
奇跡の様な日々を殺すのです。
機会を待っては、
機械の様に過ごすのです。

終わるならせめて、
あの波紋の様に残せたなら。

あの投げた石の様に。
あの落ちる日の様に。
あの軌跡の様に。

何か意味があるというのなら。

#軌跡

4/13/2025, 3:46:22 PM

足取りは左右にふらついて。
意識も同じか。
ふらりと落ちる。
アスファルトは冷たい。

ひとひらの命なら、
桜の花のように散りたかった。
ひとひらの花なら、
皆と一緒に散れたのか。
ひとひらの葉なら、
さよならは言わずにいれたのか。
ひとひらの紙なら、
何かを残せたのだろうか。

そのままでいる。
ひとひらのままで。

#ひとひら

4/5/2025, 3:53:44 PM

「ただ歩いただけなんだ」
彼女は長い髪をまだ冷たい風を、
髪に纏わらせて言う。
「何処に行きたかった訳でもないんだ」
桜の花びらは逃すまいにと、
彼女に執念深く纏わりついて。
「行きたい場所を選んだんじゃ無いんだ」
こらえる様に語る声とは裏腹に、
薄笑いの様な自笑する様な表情で。
「行ける場所を選んだんだ、
この身のままで、描いたままで受け入れられる様な所を」
自笑は深くなり、口先の歪みと目の潤みが深くなる。
「描けるなら良かった、ずっと望まれた姿で」
潤みは水滴へと姿を変えて、彼女の頬を伝っていく。
「なんでそんな風に生きられなかったんだろう」
自笑の笑みは無くなり、彼女がかつて嘲笑した、
泣き声が遠く聞こえる。
「もう疲れたよ」
少女の声で呟く。
かつて冷笑を浴びせた声で。
「君なら解ってくれる?」
縋るような声で、少女はそう言った。

#好きだよ

4/3/2025, 4:54:28 PM

ここは冷たくて、鉛の様に重たい。
寂しさが針の様に刺しても、
その冷たさのせいにしては、
目を背ける日々です。

明くる朝には消え去ろう。
明くる日と共に消え去ろう。
悲しみが対価がそれらなら、
日はその為に登るのか。

それらが君の対価なら、
それらと共に立ち去ろう。
夜と共に消え去ろう。

明くる日の朝ならば、
それが対価になるのなら。

君がそれの対価なら、
僕も共に消え去ろう。
夜と共に消え去ろう。

それが対価になるのなら。

#君と

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