火を灯して、影を作って。
意味があると教えて。
日が昇って、夜を終らせて。
明日に理由を作って。
光を作って、目を曇らせて。
瞼を開ける事を知らせて。
ここにある物を教えて。
ここにない物を数えて。
ここで正常な物を教えて。
ここで違える物を数えて。
火を灯して、日を昇らせて。
光を作って、瞼を開させて。
揺れる影にて報せて。
#揺れるキャンドル
冬の匂いは乾いた香木に似て、
喉の奥に粘り、へばり付いた。
腰掛けた板張りの椅子は固く冷たい。
主の像を見上げる。
偶像の哀れむ目を見つめる。
「祈るのはもうやめたの?」
乾いた声が後ろから聴こえる。
ヒールが石の床を叩く甲高い音に、
私は振り返らず、頭を垂れた。
「彼は救ってくれなかったわね」
感情のない、空っぽの声で言った。
「それにも意味があったって言うつもり?」
責めるわけではなく、ただの問い、
何も知らぬ子供が親に聞くように、
答えの無い問いの答えを求める様に、
私はより深く頭を垂れる。
それのみが答えであると。
それ以外には答えは持ち得ないから。
彼女は哀れんだ目で、
「手放した物だけが美しく思える物ね」
偶像と同じ目をしていた。
#手放した時間
焚火の弾ける音が響いて、
夜の闇に溶けた頃に、
「人類が火を使い出したのは180万年前らしいよ」
長い黒髪を後ろに縛った女が喋る。
「火の無い夜は怖かっただろうね」
焚火に赤く照らされた顔で薄く笑いながら。
火バサミをカチカチと鳴らす。
「もしかしたら怖くなかったのかもだけど」
一つ薪を焚べる、じわじわと端から黒く焼けていく。
「日の暖かさを知っていたから、きっと怖かったんだろうね」
周りからは鈴虫の音が秋の風に揺れて聞こえる。
「もし、明かりが一つもない世界だったらどうだったんだろうね?」
ばちりと薪が弾けて、火の粉が舞った。
「月も、太陽も、火も、蛍もいなくて」
「夜の闇しかなかったらどうだっんだろうね」
火の粉は少し宙を泳いで、空の星と重なった。
「もし明かりのない世界でも、
それでも闇は怖い物になり得たのかね」
彼女は暖を取るように火に手をかざして、
「明かりがあったから、闇は怖くなったのかな」
暖かな細い指で私の頬をなでた。
「どう思う?」
仄かに煤けた灰の匂いがした。
#灯火を囲んで
夏が終わり、秋も過ぎて。
疲れ果てて、振り返れど。
枯れ葉にて道は途絶えて。
先を見れど、遠き面影。
道半ばにて、立ち竦んだ。
時期に冬も来るか。
雪に埋もれるでも待つか。
春でも待とうか。
それにも飽きたか。
#冬支度
傷は既に癒えて。
跡も無く消えて。
記憶も遠く、残る物もいない。
友は遠く離れて。
愛は朝に消えた。
冬空は曇り、枯れた風の香り。
底に残る物を教えて、幸福の残り香。
そこにある物を教えて、愛情の残熱。
変わらない物を教えて、 。
流されない物を教えて、 。
それがないなら。
それもそうだね。
しょうがないね。
なら一つ叶えて。
#時を止めて