なにもかもがあったのだ。
暖かな日差しも、柔らかな薄曇りも
緑咲く大地も、さざめく海も
鮮やかな星々も、心弾む歌声も
丁度良い服も、沈み混む寝床も
気の置けない親友も、健康的な身体も
なにもかもがあった。
なにもかもがあったのだ。
「それでもお前は行くというの」
零れた果汁が染める袖
蕩けるように甘い芳香
詰るような、責めるような
それが精一杯の抗議と知っていて
「それでも行かなきゃならない」
白み始めた水平線
遠く聞こえる鐘の声
小さく引かれた袖の先が
同じ色に染まりゆく
………
小煩いアラーム、半端に日差しの落ちる床
草葉も人のざわめきもなく、風だけが吹き荒ぶ音
何もかもがないこの場所で、
一人きりのこの場所で
「夢なんかじゃなく、お前の場所まで辿り着くとも」
花を編んだ指飾り
揃いの白こそ誓いの証
<楽園>
ふわりと綿毛が飛んでいく
遠く遠く青空に
白く真っ直ぐ引かれる線
長く長く青空に
旅立つ君に別れの歌を
挑み立つ君に激励を
この吐息の一つすら
君の追い風となるように
<風にのって>
晴れ空のように澄みわたり
星花みたいに麗しく
陽光がごとく明るく
真実と誠実を心に
大地を駆け
海風を拓き
未来を望み
春夏秋冬を数え
永久を想い
刹那を慈しみ
君が
この世に産まれ落ちた君が
いつまでも幸せの中に在ることを
愛をもってその名に祈る
いつまでも祈っている
<刹那>
「生き物はね、次代に命を繋ぐのがお仕事よ」
「でもね、それを果たす手段は別に、
子供を産むことだけじゃないのよ」
「赤ちゃんを無事に取り上げるのも、母子を補助する
のも、無事に命を繋ぐのに大事だし」
「食肉や野菜を育てて、市場に回して、加工して、
口に入るようにするのも不可欠だわ」
「教育、医療、遊び、芸術、他にも皆。健全に安定に
次代のまたその次の次を繋いで行くのに必要な事」
「父母の代わりに社会を回すのも、当然そう」
「自分の次代を繋げずとも、誰かの次代を繋げる
なら、その全てに意味があるわ」
「皆、自分に出来る事で、自分達の種の次代を繋いで
いくの」
「でもね、自分に出来る事を、その意味を
一つに固定しない方が良いわ」
「それが果たせなくなった時、
それを果たしてしまった時、
其処から先の生に対して、
意味を、価値を、見失ってしまうから」
「無価値を自覚して生きることは、
ただ生きることより、死んでしまうことより、
ずっとずっと難しいこと」
「難しいことを続けるのは、当然難しいもの」
「……そう伝えていくことが、
私の役目だと信じているの」
<生きる意味>
正義の反対は悪ではなく、異なる正義なのだ、という話を思い出した。
敵百人を倒した英雄が、味方百人を殺した大罪人と言えるように。
全てを救うかみさまが、数多の信仰を食い潰し煽動するように。
あるいは、ショートカットとロングヘアのどちらが似合うかの論争みたいに。きのことたけのこと赤と緑とチョコの有る無し中か外かみたいに。
己の思想が有る限り、誰かにとっての悪とならないことは無いのだ、と。
完全な善人には至れないヒトをみて思う。
<善悪>
一瞬の突発的な出来事にすら3回を唱えられる程、
常に願い行動しているからこそ、流れ星は叶うのだという。
「でもきっと、それも嘘だ。何回唱えたって、
ただの一度も叶ったことなんて無いんだから」
空を睨むその顰めっ面が、どうしても愛おしくて、
何を願ったのと問うた。
随分ともにょった挙げ句、言い辛げな唇が溢したのは、案外に俗物的な願い事で。
思わず笑ってしまったから、そっぽを向いた機嫌を直すのが大変だった。
謂わば、叶わぬなら 叶えてしまえ 時鳥 の気持ち。
明らかに誤魔化しのある願い事は、何処まで真実かは知らないけども。きれいなお家に可愛いペット、不自由なく使えるお金と時間。まあ諸々の都合上、結婚相手な自分なのは申し訳無くもあるけれど。
全部揃えて、準備万端整えて。無事での言葉に笑って、言葉にしないさよならの代わりに手を振った。
軌道エレベーターが出来てから、流れ星が増えた理由を把握していたから。
画面の向こう、とある宇宙作業員が一人、
事故に因り大気圏に突入して燃え尽きたと。
「……やっぱり、叶わないじゃないか」
「無事に還ってきて欲しかったのに」
<流れ星に願いを>