小絲さなこ

Open App
3/22/2024, 2:42:33 PM


「当て馬にすらなれない」


はじめは「ちょっとかっこいいかも」だった。
思わず目で追う。
その視線の先に誰がいるかは、すぐに気付いた。

なんて地味な子。
単に幼馴染だから放っておけないだけでしょ。

あの子を見るみたいに、あたしを見て。
優しく見つめる先にいるあの子が羨ましい。

だけど彼の想いは実り、ふたりの間に強引に割って入らなかったことを後悔した。


「釣り合ってないよね」
陰であの子を悪く言う。

「あの子には勿体ないと思わない?」
彼にあんな地味で内気な子、似合わない。

そう言ったあたしに「あの子のこと、よく知らないから」と言うクラスメイト。
あたしもあの子のことは、よく知らない。
でも、そんなのどうでもいい。
あの子を悪く言う理由なんて、彼を独り占めしていることだけで充分。

そう思っていたのに。



彼女の悪評の出どころを彼に知られてしまうなんて、思わなかった。


自分の醜さを認められなかった私。
もうしないと誓っても、きっと赦してくれない。
なぜあんなことをしたのか。
いまさら後悔しても遅いのに。





────バカみたい

3/21/2024, 2:44:03 PM



「愛の逃避行」


ホテルの窓から荒れ狂う海を見ている。



なぜ悪いことをした人って、ひと気のない土地へ逃げるのだろう。
木を隠すなら森の中って言うし、都会の方が見つかりにくいと思うけど。


「人の目が気になるからだろ」
窓から視線を逸らさずあなたは言う。


そういうもんかなぁ……


罪を犯したふたり。
時刻表と睨めっこしながら、電車を乗り継ぎ日本海を目指す。
追い詰められたふたりは、手を繋いだまま、荒れ狂う海へ……


「新婚旅行で心中する想像すんなよ」



────二人ぼっち

3/20/2024, 2:38:52 PM


「ずっと聞きたかったこと」


初めて会ったはずなのに、そんな気がしない。
自分と似ていると感じるその男性に手を伸ばすが、触れることは出来ない。

聞きたいことも、知りたいことも、ありすぎる。


なぜ母さんを置いていったのか。
本当に母さんを愛していたのか。
そして、俺のことは……


いつか会える時が来たら、聞きたかったことが溢れ、頰に伝う。


何も言わずただ微笑む男性の姿が、薄くなっていく。



ずっと見守ってくれていたと、思ってもいいのだろうか。


────夢が醒める前に

3/19/2024, 3:10:23 PM



「言うもんか」



入学してだいぶ経つのに、彼女の笑顔を見た者はいない。

話しかければ応えてくれるが、無表情のまま。
初めはなにかと話しかけていた女子たちも、次第に話しかけなくなった。


ひとり分厚い本を読んでいる彼女。
遠くから、彼女のことをこっそりと眺めるのは嫌いではない。
だが、ただのクラスメイトとしか思っていなかった。別の世界の人だと思っていたから。


その彼女をたまたま見かけてしまった。
隣の市にある、隠れ家風カフェ。
クラシカルな制服を身に纏い、給仕してくれる彼女。まるで別人だ。
学校では決して見せない笑顔を客に振り撒いている。


会計時、彼女はささやいた。

「誰にも言わないで」



────胸が高鳴る

3/18/2024, 2:58:28 PM

「誓っていたのに」

  
いまどきこんなことってあるだろうか。

護られるべき血統と、命をかけて護る一族。
この時代になっても続いている、しきたり。

こんなことは自分たちの代で終わらせる。
そう誓っていたはずの親たちも、いつしか子供たちに繋いでいた。


もしも、ふたりが普通の家に生まれていたら……?
ごく普通の家で育った、ごく普通の幼馴染のふたりは、ごく普通の恋をして……
何度も空想し、願っていたこと。

ささやかな空想は、希望だった。
それが叶うことがないものだとは知らずに。


  
君は俺の前に飛び出す。



────不条理
 

Next