「当て馬にすらなれない」
はじめは「ちょっとかっこいいかも」だった。
思わず目で追う。
その視線の先に誰がいるかは、すぐに気付いた。
なんて地味な子。
単に幼馴染だから放っておけないだけでしょ。
あの子を見るみたいに、あたしを見て。
優しく見つめる先にいるあの子が羨ましい。
だけど彼の想いは実り、ふたりの間に強引に割って入らなかったことを後悔した。
「釣り合ってないよね」
陰であの子を悪く言う。
「あの子には勿体ないと思わない?」
彼にあんな地味で内気な子、似合わない。
そう言ったあたしに「あの子のこと、よく知らないから」と言うクラスメイト。
あたしもあの子のことは、よく知らない。
でも、そんなのどうでもいい。
あの子を悪く言う理由なんて、彼を独り占めしていることだけで充分。
そう思っていたのに。
彼女の悪評の出どころを彼に知られてしまうなんて、思わなかった。
自分の醜さを認められなかった私。
もうしないと誓っても、きっと赦してくれない。
なぜあんなことをしたのか。
いまさら後悔しても遅いのに。
────バカみたい
「愛の逃避行」
ホテルの窓から荒れ狂う海を見ている。
なぜ悪いことをした人って、ひと気のない土地へ逃げるのだろう。
木を隠すなら森の中って言うし、都会の方が見つかりにくいと思うけど。
「人の目が気になるからだろ」
窓から視線を逸らさずあなたは言う。
そういうもんかなぁ……
罪を犯したふたり。
時刻表と睨めっこしながら、電車を乗り継ぎ日本海を目指す。
追い詰められたふたりは、手を繋いだまま、荒れ狂う海へ……
「新婚旅行で心中する想像すんなよ」
────二人ぼっち
「ずっと聞きたかったこと」
初めて会ったはずなのに、そんな気がしない。
自分と似ていると感じるその男性に手を伸ばすが、触れることは出来ない。
聞きたいことも、知りたいことも、ありすぎる。
なぜ母さんを置いていったのか。
本当に母さんを愛していたのか。
そして、俺のことは……
いつか会える時が来たら、聞きたかったことが溢れ、頰に伝う。
何も言わずただ微笑む男性の姿が、薄くなっていく。
ずっと見守ってくれていたと、思ってもいいのだろうか。
────夢が醒める前に
「言うもんか」
入学してだいぶ経つのに、彼女の笑顔を見た者はいない。
話しかければ応えてくれるが、無表情のまま。
初めはなにかと話しかけていた女子たちも、次第に話しかけなくなった。
ひとり分厚い本を読んでいる彼女。
遠くから、彼女のことをこっそりと眺めるのは嫌いではない。
だが、ただのクラスメイトとしか思っていなかった。別の世界の人だと思っていたから。
その彼女をたまたま見かけてしまった。
隣の市にある、隠れ家風カフェ。
クラシカルな制服を身に纏い、給仕してくれる彼女。まるで別人だ。
学校では決して見せない笑顔を客に振り撒いている。
会計時、彼女はささやいた。
「誰にも言わないで」
────胸が高鳴る
「誓っていたのに」
いまどきこんなことってあるだろうか。
護られるべき血統と、命をかけて護る一族。
この時代になっても続いている、しきたり。
こんなことは自分たちの代で終わらせる。
そう誓っていたはずの親たちも、いつしか子供たちに繋いでいた。
もしも、ふたりが普通の家に生まれていたら……?
ごく普通の家で育った、ごく普通の幼馴染のふたりは、ごく普通の恋をして……
何度も空想し、願っていたこと。
ささやかな空想は、希望だった。
それが叶うことがないものだとは知らずに。
君は俺の前に飛び出す。
────不条理