小絲さなこ

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7/25/2024, 2:06:37 PM

「貴方は私に呪いをかけた」



どんなに美しく立派な翼を持っていても、飛ぼうという意志がなければ飛ぶことはできない。

だから、僕は君に暗示をかけた。
君のその翼は飛ぶものではなく、僕に見せるための飾りものなのだと。

それだけでは安心できないからと、僕は君を脅した。
空へ憧れを抱かないように。
外の世界は怖いのだと。



貴方が私を他の人の目に触れないようにしていることは、昔から気がついていた。

他の誰かと仲良くしないように。
ふたりだけの世界を作りたいと、私が思うように。

貴方は私に呪いをかけたのだ。
君は飛べない鳥なのだと。

貴方の思い通りになっていく私。

それで良い。

何処にも行かないようにしたい。
他の人の目に触れないようにしたい。

貴方にそう思われることが、どんなに嬉しいか、貴方は知らないでしょう。


呪いなどかけずとも、私は飛べない。

貴方の望みは、私を閉じ込めておくこと。
私はそれに悦びを感じているのだから。



────鳥かご

7/24/2024, 4:35:23 PM

「友情を終わらせるとき」


男女の友情は成立するか否か。

お互い恋愛感情を持たなければ、友人関係は維持出来るだろう。
もしも、どちらかが友情以上の感情を抱き、相手にそれを気付かれてしまったら、その瞬間から関係は崩れていく。

そんなこと、誰かに言われなくてもわかっていた。

こいつに恋愛感情を抱くなんてありえない。
そう思ったときには、既に手遅れだということも。


自分の気持ちに気付いたのが先なのか、君の気持ちに気付いたのが先なのか、どちらなのかわからない。
だが、確実に言えることは、お互い友情以上の感情を相手に抱いているということ。
そして、君はまだ俺の気持ちに気付いていない、ということ。


さて、どうやってこの関係を崩していこうか。



────友情

7/23/2024, 10:18:43 PM

「高校デビュー」


君は知らないだろうけど、僕はずっと君を見ていた。

同じ高校に進学することに密かに喜んでいたけど、まさか君が、いわゆる高校デビューするとは。

今どき珍しい、ぴっちり編み込まれた左右の長い三つ編み。ヤボったくて長めの前髪。変なフレームの大きな眼鏡。そんな格好をしていても、よく見るととんでもない美少女──それが中学時代の君。

今の君は、髪を鎖骨の辺りの長さに切り、明るい茶色に染め、前髪も流行りの軽やかなスタイル。眼鏡はやめ、カラーコンタクトに。ぱっと見て、誰がどう見ても美少女だ。


君は知らないだろうけど、僕はずっと君を見ていた。

クラスメイト、同じ学年の生徒、先輩……数多くの男を虜にしていく君。

君が遠くに行ってしまったような気がする。
だけど、君が幸せになるなら……



高校デビューなんてしようとも思わなった僕は、ただ、中学時代と同じように陰で君を見つめ続ける。

君は知らないだろうけど、僕は君が陰気で地味眼鏡だと揶揄われていた頃から、ずっと君だけを見ていた。

そして、それはきっとこれからもずっと。



────花咲いて

7/22/2024, 2:22:15 PM

「過去に行けたらしたいこと」



過去に行くことが出来るなら、やりたいことはただひとつ。

父と母の出会いを阻止する。

「こんな人だったなんて」
母がよく言っている。
結婚前は、こんな人じゃなかったって。
お互い一目惚れで、子供ができたからと結婚したが、その後態度が急変したのだという。
毎日毎日怒鳴り合いの喧嘩ばかりしている。


ふたりが出会っていなかったら、母はどういう人生を送っていただろう。

父の強い要望で寿退社した母。
「あのまま仕事を続けていれば……」
そう呟いていたこともあった。


もしも過去に行けるなら、父と母の出会いを阻止したい。

両親の人生は変わってしまうだろうけど、たぶん、父も母も、今よりもきっと幸せになれるはずだ。


私は生まれてこないことになり、消滅してしまうかもしれないけど、母が平穏で幸せな人生を送れるのなら、それはそれで良いか、とも思う。

時空を超えて、人の人生を変えた代償。
それが私自身の消滅なら構わない。

両親の不仲とは別の問題で、私は私で、消えてしまいたいのだから。


────もしもタイムマシンがあったなら

7/21/2024, 9:24:08 PM

「高校三年生男子が欲しいもの」



「バイク」
「東大に現役合格できる頭脳」
「運動神経」
「いや、やっぱ、金だろ」
「ロマンねぇな」
「なんだよ、世の中結局は金だろーが」
「けっ。金じゃねーよ。愛だろ。俺は愛がほしい……彼女がっ、彼女が、ほしい!」

昼休み。中庭でいつものメンバーと弁当を食べているのだが、なぜか今一番欲しいものは何か、という話になった。

悪友のひとりは、彼女が欲しい欲しいと駄々っ子のように喚いている。

「あー、また始まったよ……」
「頭も顔も別に悪くないし、背だって平均以上あるのにさぁ。なぁ、なぁ、なんで俺に彼女ができねーの?」
「そういうとこだろ」
「そういうとこだな」
「俺が女だったら、こいつだけは彼氏にしたくねーな」
「うるせーよ。これだから彼女持ちは!」
「彼女持ちは彼女持ちで、それなりに色々悩みもあるんだが?」
「単なる惚気だろ!」

ギャーギャーうるさいやつめ。
普段はいいヤツなんだが、一旦、彼女欲しいと言い出すと、しばらくうるさいんだよなぁ……


「お前ら、うるせーぞ。ほら、チラチラ見られてんだろ。周りの迷惑も考えろ。静かに食え」
「はーい、お父さん」
「誰がお父さんだ。お前らみたいな子供作った覚えは無い!」
「そんな……ボクの本当のお父さんじゃないなんて!グレてやる!」
「おーおー、グレてみろ」

おさまらない騒がしさ。
だが、不快ではない。

俺は欲しいものが特にない。
つまらんヤツだと言われるだろうから、こいつらには言わないが、幼い頃から物欲がなかったので「誕生日になにが欲しい?」と聞かれるたびに困っていた。

今、特に欲しいものはない。
ないのだが……



こんな風に、こいつらといつまでもいられればいいのに。

心の中でそっと呟き、弁当箱の蓋をする。



それは、けっして叶うことがない願い。



────今一番欲しいもの

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