小絲さなこ

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8/9/2024, 4:01:28 PM

「デートではない」


待ち合わせ場所に現れた幼馴染は、いつもより大人っぽくて、眩しくて、息が止まりそうになった。

「なにボーッとしてんの。エスコートしてくれるんじゃなかったの?」
「あ、うん。ごめん。ちゃんとやる」
「ん、期待してる」


今日は、他県にある姉妹校からの交換生を案内するための実地練習だ。
断じてデートなどではない。

大通りを歩き、名所を巡りながら、この街のことを軽く説明していく。

ひと通り案内をし、近くのカフェに入った。
断じてデートなどではない。


「……どうだった?」
「うーん。クイズ形式は良いと思う」
「良かったぁ」
「だけど歴史に関して、そこまで細かく説明しなくてもいいんじゃない?」
「いやー、でも」
「もっとラフな感じでいいと思うけど。この店の酒饅頭美味しいとか、お土産買うならここが良いとか」
「……む、難しー」
「あと、なんていうか、本物のガイドさんみたいで知識すごいなーと思うけど、色々と高校生らしさに欠けるっていうか……」
「うわー、ザックリきたー」
「あと、上手いこと言おうとしてる感がすごいし。そうじゃなくて……多少下手でも自分の言葉で言ったほうがいいんじゃないかな」

今日付き合わせたお礼だと、カフェ代を支払う。
断じて、デートなどではない。

いつか経験するであろう、初デートの実地練習である──そういうことにしておかなければ、初恋の相手をこんな風にエスコートなんて出来ないのだから。



────上手くいかなくたっていい

8/8/2024, 3:38:55 PM

「あなたの娘になりたい」



「もし女の子だったら、俺、絶対可愛がりまくると思うんだよ」
「あー、なんかそんな感じするー」

同窓会で数年ぶりに会ったあなたの左手の薬指には、指輪が光っている。
来年にはパパになるのだという。

決して叶うことのないこの恋は、小さな箱に入れて埋めてしまおう。


私の本当の近況報告は、誰にも言わない。

私は来年の桜さえも、見ることが出来ないかもしれない。
そんなこと、絶対に言えないし、言うつもりもない。


最後に会いたい人に会うために、今日ここに来たの。
後悔せず残りの日々を過ごすために。


ずっとあなたのことが忘れられなかった。
この想いは、夜の闇に溶かしてしまおう。

だけど、ひとつだけ、願ってしまう。
叶ったとしても、願ったことなど忘れてしまうだろうけど。


生まれ変わったら、あなたの娘になりたい。

そうしたら、あなたに絶対に愛してもらえるのだから。



────蝶よ花よ

8/7/2024, 3:11:03 PM


「祖母の口癖」


「人の寿命っていうのはね、生まれた時から決まっているんだよ」

祖母の口癖だ。

五歳の時に事故で母を亡くした私は、祖母に育てられた。父はいない。私が生まれてすぐに離婚したのだという。


祖母は若くして親と夫を亡くし、最愛のひとり娘にも先立たれた。
人の寿命は最初から決められている──そう思わないと乗り越えられなかったのかもしれない。


決められているのは、寿命だけなの?
もしも、事故死する運命を回避してしまったら、そのあとその人はどうなるの?


母が亡くなったときの事故で、私は生死を彷徨ったという。
もしも、私が運命に逆らって生きているのなら、未来のことがまったく描けないのも、自分が大人になった姿さえも想像できないのも、生きる運命じゃなかったからなの?

時々そんな考えがよぎる。


「あの時生かされたのだから、頑張って生きなきゃ」
私が一番嫌いなセリフ。
祖母は決してこんなことを言わなかった。


「頑張っても、頑張らなくても、いつか人は死ぬの。だからいつ死んでも後悔しないようにするのよ」


祖母の口癖。

だけど私は、まだまだ後悔ばかりの生き方をしている。

昨日もあんなひどい事故に遭ったのに、私は無事だ。念のためにと病院に留められたが、たいした怪我ではない。
何らかの力で生かされているような気さえしてきた。

もしかしたら、生きるために後悔ばかりしているのかもしれない────なんて、ちょっと自分の都合の良いように考え過ぎか。



後悔しないように生きるには、どうしたらいいのか。

無性に祖母に話を聞いて欲しくなった。


三年間、伏せていた写真立てを起こす。
祖母の顔をやっと見ることができた。



────最初から決まってた

8/6/2024, 3:15:40 PM


「図太くなってよ」



遮光カーテンはまるで天の岩戸。
暗くした部屋で、蹲ったままの貴方を照らせるなら「君は太陽のようだ」と言われるのも悪くない。
でも、私は太陽にはなりたくないの。

私を貴方の世界の中心にしないでほしい。
貴方の世界では、貴方が太陽。
もっと自分を軸にして考えてほしい。

「君が眩しくて辛い」
そう言われた方が辛くなるってこと、わかってるのかな。



私の世界では私が太陽。
そして、月も地球も、名もなき星も全て私。

貴方もそれくらい言えるようになってくれたらいいのに。
でも、そうならない、なれない貴方が愛しかったりもする。

本当に私たち正反対だね。
幼馴染じゃなかったら、仲良くなれなかったかもしれない。


まだ外に出たくないなら、無理に出なくてもいい。
貴方の世界で貴方が太陽になるまでは、私が側にいるから。
それまでは、私が貴方の太陽の代わりになってあげてもいいよ。



────太陽

8/6/2024, 5:47:39 AM

「午後三時。門前町。古民家カフェ。」





日中、毎正時に聞こえてくるのだと、あの人は言っていた。
三つ鳴らしたあとに、時刻と同数の鐘の音。


あの人の軌跡を辿る旅は、ここから始めることにした。


もう二度と会うことができない。

もっと、教わりたいことがあったのに。
この先もずっと、見守っていてほしかったのに。
それよりもなによりも、あの人自身もやりたかったこと、やり残したことがあったのに。

寺を中心に発展した町。
あの人が生まれ育った町の、路地裏を歩く。

古い建物を改修や改築したカフェや本屋、雑貨屋があちこちにある。

「リノベーションか……」


鐘の音が聞こえてきた。


午後三時。

目についたカフェに入り、ノートを開く。

あの人が残したもの。
それらはもしかしたら、あの人が俺に出した最後の課題なのかもしれない。



────鐘の音

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