「一緒の帰り道」
家が近くだからって、陽が落ちてくると危ないからって、幾つも理由をつけて、君と一緒の帰り道。
たぶん周囲にはバレているのに、君にはバレていないとか、鈍すぎやしないか。
ついゆっくり歩いてしまいそうになる。
あぁ、もうすぐ別れ道。
名残惜しくて、こっそりと見つめてしまう。
この気持ちを伝えても、君は戸惑うだけだろうな。
小さく手を振る君。
頷いて、歩き出して、振り返る。
ドアを開ける君を見届けて、歩き出す。
またひとつ、季節が進む。
ひんやりとした風。
卒業まで、あと一年と数ヶ月。
進路のことは、考えないように、話題にしないようにしている。
きっといつか、次に会える日がいつなのか、わからなくなる時が来るかもしれない。
『それぞれの道』ってやつ。
それを思うだけで、息が詰まりそうになるのに、まだ時間があるからと、今日も伝えられないまま。
たったひとこと。
幼い頃は、何も考えずに言っていた。
どうして今、これだけは言えないのだろう。
その理由ばかりを探し、君の鈍さのせいにしている自分に嫌気がさす、ひとりの帰り道。
────別れ際に
「それだけの関係」
あっという間に空が暗くなって、ぽつり、ぽつり数滴の雨が地面を濡らし始めたら、そのまま一気に本降りになった。
傘を開く間も無く、濡れていく。
石の階段は既にびしょ濡れ。
山門に駆け込んだ途端、遠くから雷の音が聞こえ、雨もさらに激しくなった。
とりあえずここで雨宿りさせてもらおう。
一息つき、ふと気配がした方を見ると、今一番会いたくなかった人がそこに居た。
「久しぶりだね。元気だった?」
和かに私に声をかける彼。
あぁ。他人に向ける笑顔だ。
どう応えていいものか一瞬迷い、軽く頷く。
「すごい雨だね。さっきまで、あんなに晴れていたのに」
「そうですね」
彼の方を見ずに応える。
どうして会いたい時に会えなくて、会いたくない時に限って会ってしまうのだろう。
息を吐く。
天気アプリで雨雲レーダーを確認。
三十分もしないうちに雨は止むはずだ。
彼の探るような視線を感じるが、私はそのまま前を見続ける。
私を突き放したのは彼。
今さら、話すことなど無い。
もう他人なのだ。
たまたま雨宿りをした所に居合わせた二人。
今の私たちは、それだけの関係。
だから、これ以上、私を見ないで。
話しかけたりしないで。
────通り雨
「儚く美しいこの世界に君を残して」
入道雲と鱗雲。
行ったり来たりを繰り返すように、少しずつ変わっていく空。
桜の葉やハナミズキの葉が、一足早く色を変えていく。
「急に冷えてきたね」
残り少なくなってきたカレンダーに印をつけながら君が呟く。
その印をつけた日が来る頃には、僕はここにはいない。
君もわかっているはずなのに。
それを感じさせないように君は振る舞う。
ずっとずっと側にいられたらいいのに。
それは、絶対に叶うことのない願い。
「どうか僕のことを忘れて。いつか他の誰かと幸せになってほしい」
心にも無い綺麗事を並べる。
罪を償うのは、僕ひとりでいいはずだ。
この儚く美しい世界に君を残していくことは、最大の罰。
赦してほしいなど、決して言えない。
だから、君が僕を恨む日が来るように祈ってる。
誰かと幸せになる日が来ても、僕のことを忘れないように。
僕がこんなことを思っているなんて君が知ったら、さすがに軽蔑するだろう。
それでいい。
それでいいはずなんだ。
「見守っていてね。私頑張るから」
頷くことしか出来ない僕を、君は抱きしめる。
────秋🍁
2024.09.26.
「朝焼けにおやすみ」
暦の上では秋だが、まだまだ気温の高い日は続いているため、取り込んだばかりの洗濯物はホカホカと温かい。
まだ高校生は学校にいるであろう時間帯だ。
そっとカーテンを閉める。
繁華街に住んでなくてよかった。
ゴロリとベッドに寝転がる。
まだ明るいから、もうひと眠り。
次にカーテンを開けるのは、陽が落ちてから。
月を眺めながら、今夜の話題を探してネットの海を彷徨う。
日付が変わってからの逢瀬は画面越し。
「月が綺麗ですね」なんて、言える度胸はない。
だけど、同じ月を見ていることが、私と貴方が生身の人間だということを証明している気がする。
学校に行けなくなって、外にも出られなくなった。
それでも、誰かと繋がっていたいなんて、都合が良過ぎると思う。
だけど、この時間が楽しいと、まだ思える。
それなら、大丈夫。
私も貴方も、大丈夫。
朝陽が近づいてくる気配がして、カーテンを閉める。
おやすみ。また明日。
そう言い合えることがとても救いになっていること。
たぶん、私と貴方以外には理解できないだろう。
でも、今は、それでいいのだ。
────窓から見える景色
「彼女のためなら」
俺の初恋相手は、幼馴染で、何不自由なく育てられたお嬢様。
毎年、誕生日のプレゼントを俺に強請ってくる。
幸いなことに、モノではないから助かっているが。
まぁ、欲しいものは何でも買ってもらっているみたいなので、庶民の俺に物を強請るなんてことは、する気にもならないのだろう。
「今年はね、誕生日まるまる一日、ずっと一緒にいてほしいの」
「朝から晩までか」
「違うよ。夜中の零時からずっと。一日中。日付変わるまで」
「いや、さすがにそれは……」
「どうして?」
「どうして、ってなぁ……いくらお前に甘い親でも、そんなのダメだって言うだろ」
「言わないよ〜あの人たち、私のこと、高級な物を与えておけば良い存在だと思ってるだけだもん」
「そんなことないだろ」
「あるよ」
泣きそうな顔をされてしまい、それ以上何も言えなくなってしまった。
「私が一緒にいてほしい時に限って、一緒にいてくれないもん。いつもいつもいつもそうだよ」
口調は穏やかなのに、泣き叫ぶような表情をしている彼女を思わず抱きしめる。
「わかった。誰が何と言おうと、その日はまるまる一日中、俺が一緒にいてやる」
俺には、こんなことしか出来ない。
だけど、それで彼女が笑顔になってくれるのなら……
「ありがとう。ふふ……楽しみー。一日中ずっと遊べるね」
純粋培養のお嬢様である彼女が『夜中から朝、昼、夜と男女がずっと一緒にいること』が、どういうことなのかイマイチわかっていないことなど、俺にとっては些細なことなのだ。
────形の無いもの