キーンコーン カーンコーン
授業を終える、チャイムが鳴る。
なんの変哲もない、強いて言えばそこまで偏差値が高くない、そんな高校。
ジャージ姿の二人の女子高生が、机の中にある筆箱やら教科書を鞄に入れながら、雑談していた。
「ねぇねぇ!この前言ってたやつ、今日行こうよ!」
茶髪の女子生徒が、元気に聞く。
髪を高い位置で結び、手首にチェック柄のシュシュを嵌めている。
「この前って、昨日の話のこと?」
黒髪の女子生徒が、めんどくさそうに聞く。
洗いやすそうなショートカットに、水色のヘアピンで前髪を端に留めている。
「そうそう、旧校舎のこと!ぜっったい見るべきだよ、恋愛破滅の石像!」
「あれは初代美術部が作った作品だって、昨日も言ったでしょ?確かに、いろんなことはあったらしいけど。」
「その"いろんなこと"が、ありすぎだよ!
飾られた石像の前を通ると、カップルが喧嘩になったり、石像の写真を撮ると、相手のことを嫌いになってしまったり、偶然にしては出来すぎてるじゃん!」
「まぁ…確かに、旧校舎に隔離されてるぐらいだし…」
短髪の生徒を押し倒すかのように、シュシュをつけた生徒は、ぐいぐいと話を続けまくる。
辺りの生徒が居なくなるほど時間が経ち、渋々、短髪の生徒は同行することを承諾した。
所々、床や壁の木が剥がれ、ガラスなんてものは何もない、木製の旧校舎。
ネズミが居そう、いや居なきゃおかしい雰囲気のその場所は、後者と比べたら小さい、二階建ての建物だ。
老朽化によって封鎖されたその敷地には、立ち入り禁止の看板と、規制線のようなテープが貼られていた。
もちろん、二人の生徒はそれを潜り抜け、スマホのライトで灯りを確保しながら、探索をしていた。
「確か、石像って2階の中央に置かれてるんだよね?
というか、言い出しっぺが足震えてんじゃないか。」
「むむむむむ、むり〜。思ってた100倍コワイヨー!!」
ため息を吐き、後ろにしがみついてくる腕を邪魔くさく思いながら、短髪の生徒は階段を登り、2階に辿り着く。
教室と階段の間、つまり廊下のど真ん中に、目的の石像は置かれていた。
白い石のようなもので、堂々と少しダサいポーズを決めた、男性の像だ。
「ほら、あったよ。」
うっひょー!と言いながら、びびっていた先程までの姿を壊し、シュシュの生徒は石像の前に立つ。
「待ってました!うわー雰囲気あるねーー」
「結局、何がしたいのさ。破局させたいカップルとかいるの?」
「そんな、闇のカプ厨じゃないんだから。目的は、これなのだー」
闇のカプ厨ってなんだよ。というツッコミをスルーしながら、カバンをゴソゴソ漁り、取り出したのは一枚の写真だった。
「浮気した元カレをね、ちょっとね、呪いたいんだよね。なんか、拗らせたインフルとかかかって欲しいんだよね。死なないぐらいの、後遺症が残るタイプの。」
「やけに具体的だなおい。ん?なんだこれ」
短髪の生徒は、床に落ちているそれを拾い上げた。
それは、手のひらに収まるほどの十字架だった。
ひんやりと冷たい感触が手のひらに伝わり、首にかけられるチェーンが通されている。
「なんだこれ、ねー、これあんたの?」
石像の方に目を向けた。しかし、目的の人物は居なかった。
いや、居ないのではない。倒れていた。
石像の前で、ぼろっちい床の上で、仰向けになって倒れていた。
倒れた音もなく、断末魔も聞こえなかった。
「ちょ、どうしたの!?」
咄嗟に駆け寄り、十字架を床に置いて、その手で彼女を介抱する。
口元に耳を近づけると、すぅすぅと寝息を立てていた。
手首に人差し指を当て、脈を確認する。特に異常は無い
「な、え?寝てる?嘘だろこんな所…で…」
ツッコミの声が、だんだんと弱くなる。
彼女の頭を支えていた腕に、力が入らなくなる。
焦点がぼやけ、言葉を出すための喉が動かない。
意識がぷつりと切れ、倒れ込む…ことはなかった。
地面に体が落ちそうになったその瞬間、頭に手を当て、その体を支える。
その手には黒い革手袋がはめられ、ゆっくりとその頭を地面に、衝撃のないように置く。
「ふぅ…あぶない。これもワタシの優しさゆえだね。」
石像の前で倒れている、二人のジャージ姿の女子高生。
その側で立っていたのは、すらりとした男性だった。
オールバックの金髪に、赤と青が混ざった眼。
白いシャツに、黒い革ジャケットを羽織り、黒くて長いパンツを着こなしている。
「まさか、二人も捕れるなんて。運がいいな。
さて…運ぶとするか。」
パチンと、革手袋なんてしていないような軽快な音を鳴らすと、近くの部屋からコウモリの様な生物が、数匹と現れる。
シュシュした生徒の服を掴み、危なそうに持ち上げる。
黒い男性は、短髪の生徒をお姫様の様に抱える。
そうして、まるで漁から帰った漁師の様に、笑みを浮かべて、旧校舎から姿を消した。
お題『優しさ』×『ヴァンパイア』
1日と1日の狭間
時計の針が、ぴたりと止まった。
針は接着剤でくっついたかのように、動かなくなる。
自身の部屋で目覚めた少年は、その時計を不思議そうに見ていた。
茶色の髪が、寝癖でひどい方向に曲がっている。
壊れたのかな?と独り言を呟き、枕側に置かれたスマホをいじる。
しかし、何度も画面をタッチしても、自身の顔を写すだけだ。
少年はシャッドダウンをし、電源をつけようとするも、何も反応がない。
まるで壊れてしまったかのようだった
少年は、真っ暗な室内を明かり無しで歩き出した。
見慣れた部屋も、暗闇の中ではお化け屋敷のように感じてしまう。
なんとか手すりを掴み、両親の寝ている1階に降りる。
すると、階段の目の前に広がっている玄関の扉が、少しだけ開いていることに気がついた。
微かに月明かりが、そこから漏れ出している。
不用心だな、と鍵を閉めようと扉に近づいた。
手を伸ばし、シルバーの取っ手を掴む。
その瞬間、ドアが開かれ、顔面に扉がぶつかった。
「うわっ!」
おでこに痛みを覚えながら、少年は後ろに倒れ込む。
いたた、とおでこを抑えながら開け放たれた扉を見やった。
そこには、誰かが居た。
それは成人男性ほどの大きさで、倒れ込む少年を見下している。
二本の足に、二本の腕。
しかしその皮膚は、スライムのような緑色だった。
服はボロボロで、殆ど着ていないのと同義だ。
目は虚で、開け放たれた口に歯なんてものは無い。
「あぁ…あぅ…」
その言葉は、目の前にいるそれが、ゾンビであることを証明してしまった。
少年は叫び声を上げ、立ちあがろうとするも、腰に力が入らない。
ゾンビは脚を引き摺りながら、少年に少しずつにじり寄る。
その手が、少年のおでこに触れようとする。
しかしそんなことは起こらなかった
目を瞑っていた少年が目を開けると、そこにはゾンビの姿はおらず、代わりに女性が立っていた。
金髪を肩下まで伸ばし、右目が髪で隠れている。
水色の眼の下には深いクマが描かれ、不健康そうな顔でニヤリと笑っている。
ヤンキーのように片手で待っていたのは、ふざけた色をしたピコピコハンマーだった。
「大丈夫かい、少年?
私が倒していなければ、君はこの夢の中で永遠にゾンビとして、生きる所だったぞ。」
女性はハンマーを持っていない手を、少年に伸ばす。
「さぁ、ゾンビになりたくないのならこの手を取れ。
私が、現実に帰るのを手伝ってやろう。」
困惑しながら、少年はその手を取った。
お題『ミッドナイト』×『ゾンビ』
*妖怪ウォッチ3をプレイした人なら、きっと後半の女性が分かるはず…
そこは、薄暗い部屋だった。
かちかちと照明が瞬きをし、灰色の鉄で作られた壁と床の上には、様々な書類が散らばっている。
「おい、本当にここなのか?」
黒髪に少しばかりの白髪を混ぜた、40代程の男性が、隣にいる女性に話しかけた。
「そのはずですけど…ニキ、ほんとに探してます?」
「こちとら警察だぞなめんな」
「うーん、他の部屋は調べ尽くしましたしね。」
女性はそう言いながら、ため息をつく。
ベージュの髪を肩下まで伸ばし、カーキのコートを羽織っている。
20代ほどの、少し大人び、かつ可愛げのある顔だった。
その会話から数分後。会話のない空気を切り捨てたのは
「あ!あった!」
という、女性の言葉だった。
やっとか、と男性も側に駆け寄り、女性が手にした一枚の紙を見つめる。
それは、手書きの文字がびっしりと書かれた、手記のようなものだった。
イラストや写真がはいる余地などなく、無機質に一番上には『生物兵器 最終調整』とタイトルが書かれていた。
「おいこれ…」
「まぁ、全部読んでからにしましょうよ。」
二人は文字を読むスピードを合わせ、読み進めた。
内容は、人をゾンビ化させてしまうウイルスや、規制主を洗脳してしまう虫、人骨を貪る猿の開発など。
様々な人類を危機に貶める方法への、アプローチが記載されていた。
しかし、どれも材料や金銭、実験段階で失敗が連続したことにより、開発は中止となっていた。
二人は、安堵のため息をついた。
更に、二人は文字を読み進めた。
その文字の後に続いた、"しかし"の文字が気になったからだ。
『しかし、ついに、やっと見つけた。転機が訪れた。
彼と出会ってから、このアプローチが可能になった。
嬉しくて死んでしまいそうだ。これで、あの憎き警察どもを滅ぼせる。
実行日は1/26。さぁ、無様に人骨を晒しやがれ。』
二人が、最悪なため息をついた。
「やばいですね。」
「あぁ、明日だ。」
「流石に手伝いますよ。この感じ、相手も私のような存在を味方につけているだろうし。」
「ふーー対価はなんだ?」
ギロリと、男性が睨む。
「えへへ。ちょっとばかし北に用事がありまして、警部の口利きで、お宿を取って欲しいんですよ〜」
警部と呼ばれた男性は、長いため息をつく。
「わかった…いいぞ」
安心と不安の空気が、部屋の中で混じり合った。
お題『安心と不安』×『生物兵器』
そこは、浜辺だった。
赤い海がザーザーと波打ち、少し傾いた太陽が、灰色の砂浜を焼いていた。
「本当に現れるんですかね。」
灰色の綿飴をちぎったような髪をした少年が、そう言った。
黒のマントが全身を隠し、金色の瞳で海を見つめる。
「きっとね。ほら、来たら戦闘するんだから、今のうちに体をほぐしとかないと。」
ベージュの髪を肩下まで伸ばし、カーキのコートを羽織った女性が、ぐいっと背伸びをしながら答えた。
20代前半ほどの、すこし大人びて、それでも可愛げのある顔をしている。
「確かすっごく大きい魚なんですよね、やなぎさん。」
やなぎと言われた女性は、屈伸をしながら答えた。
「うん。どうやら、"悲しみ"の想いを持ってるみたい。
ほら、噂をすれば…来たよ、レーラ。」
レーラと呼ばれた少年は、
「うぇぇ…まじですか」
と、荒々しくなった海を見る。
赤い波が不規則に動き、その海からそれが現れた。
イルカのショーで見る、ジャンプかのように飛んだそれは、中ぐらいの大きさをした船のようだった。
肉がついておらず、骨だけの姿をしたその魚は、元気よく跳んだ後、水飛沫をあげて海に潜る。
赤い水が二人の旅人にかかった。
「ふーーー…………」
心の底の感情を押し込め、やなぎは靴に風を纏わせ、宙に飛ぶ。
「温泉のために、頑張りますかっと!」
「やなぎさんすごい。本音を言わなかった。」
「ネガティブなこと言っても、変わんないから!ほら、行くよレーラ!」
逆光を浴びたやなぎが、戦闘開始の合図を出す。
「はいはい、じゃあお願いします!」
いつのまにか人間サイズの梟になったレーラが、やなぎの側で、羽を大きく動かす。
「うん。戦闘開始!」
お題『逆光』×『巨大モンスター』
そこは白い部屋だった。
明かりもないのに明るくて、どこまで奥が、横が広がっているのかわからなかった。
目が痛くなるほどの白、白、白。
そこで目覚めたのは、灰色の髪を長く束ねた男だった。
ネイビーブルーの目が、困惑の形を作りだす。」
「あ、あれ。なんでこんなとこに。」
戸惑いをかき消すように、うるさい音が聞こえてきた。
それは、例える意味がないほど、わかりやすく、とても嫌な音だった。
目の前に、津波のように襲いかかってくる何かが、迫ってきた。
それは"虫の大群"だった
羽音を立て、軍隊のように整列し、猛スピードで迫ってくる。
「はぁ?は、は、うわぁ!?!?」
情けない声を上げ、逃げようと走り出す。
しかし、そんな努力は虚しく消え去った。
虫の大群に呑まれ、服や、花や、口の中に入り込む。
嗚咽をしようにも出来ず、無我夢中に手を振り回す。
いつのまにか手に持っていた剣で、虫達を切り刻む。
黒い虫と、赤い鮮血が混じり合った。
一体、どれだけの時間が経ったのだろうか。
「はぁ…はぁ…はぁ」
男が息を荒く、呼吸をする。
「観念しろ!!」
若い男性の声が聞こえた。
男が視線を上げると、そこは白い部屋では無かった。
交差点のような場所で、目の前に天使が複数人立っている。
彼らはボロボロで、険しい顔をしている。
一際目立ち、堂々とした、6枚の翼を持った天使が前に出た。
「我が名は熾天使、ミカエル。観念しろ、犯罪者め。」
これが夢だったらいいのに。と、強く思ってしまった。
お題『こんな夢を見た』×『虫』