「ふぁ〜あ。そろそろ寝ようよ。」
カーキのコートを羽織った女性が、ランプの灯りを見つめながら、そう呼びかける。
「諦めるの速すぎませんか?まだ、1時間しか経ってないですよ?」
窓の外から、ターゲットの家を見張っていた少年は、呆れながらそちらを見やる。
「あ、見て見て!今日はさんかっけいが見えるよ!」
「冬の大三角ですね。って、サラッと話をすり替えないでください。」
「いーじゃん、いーじゃん。…あのさ」
先程まで、初めて星を見た子供かの様にはしゃいでた彼女は、突然成人女性に様変わりする。
「星を見ると、師匠の事を思い出すんだよね。」
「それは…どんな思い出ですか?」
「くだらないんだけどね。二人で人のいない原っぱに出て、寝っ転がって…何も言わずにゴロゴロするの。」
好物を食べたかの様な顔で、彼女は話を続ける。
「その時はね、悩みも、将来も、死も、過去も。全てが無かったことになって…素敵だったんだ。」
少年は無言で彼女の側に立ち、一緒に星を見つめる。
「だから、彼の気持ちもわかるんだ。分かってしまうんだ。星になって…全てを忘れたい。全てを無かったことにしたい。って、その気持ちがさ。」
星がいっそう、煌めいてしまった。
その星空を見て少年は深呼吸をし、覚悟を決める。
「でも、だから私は止めなきゃいけない。
そんな無かったことにしたい思い出でも、誰かにとっては星の様に煌めく、大事な思い出だって。」
ランプの火が、ふっと消えた。
「それは、ランプの様にふっと消えてしまう。だから、ごめんね。君と相対するよ。」
その言葉に呼応するかの様に、流れ星がこちらに向かって高速で落ちてくる。
ドカンという音と衝撃波が充満し、二人がいた建物を吹き飛ばす。
星になったターゲットは、ぎらりとその輝きを此方に向ける。
まるで『邪魔をするな』と言っているかの様な、まるで『これ以上生きたくない』と願っているかの様な、そんな姿だった。
「さて始めようか。君の想いを、殺害させて貰うよ!」
お題『星になる』×『ランプ』
「『君と紡ぐ物語』なんてロマンチックな言葉なんだろうか。なぁ、あんたもそう思うだろ?」
にっこりと笑顔で喋る少年は、死体という名の肉塊に座りながら、独り言を呟いた。
豪勢な飾りやシャンデリアが飾られた大広間は、炎と血の匂いによってデコレーションされている。
辺りにはメイド服を着た女性や、身なりが整った少年少女が虚空を見つめ、炎に焼かれている。
「『君と』だから、特定の誰かが居なくちゃいけないってことだよな。そうだな…」
熱に体が焼かれるのを気にせず、ハンドガンをくるくると片手で回しながら、歩き出す。
少年は、今にも焼けて消滅しそうな大きな肖像画の前で止まり、その顔をじっと見つめる。
大きくて、立派なティアラを小さな頭に被り、キラキラとした輝きを放つドレスを見に纏った、お姫様。
「ならばこれは、"君"との物語だ!
君の物語を僕が焼き尽くし、そして君が紡ぎ直す。
それを永遠と繰り返そうじゃないか!」
瓦礫が落ち、肉が燃え尽きるこの屋敷に、声変わりを迎えていない、狂気の笑い声が響き渡った。
お題『君と紡ぐ物語』×『復讐』
祈りの果てに、愚者は笑った。
それは、クリスマスを迎えた子供のように。
旅の果てに、愚者は笑った。
それは、徹夜で挑んだテストが返却された時のように。
そう笑いながら、愚者は腕を粘土のように変形させ、鋭いドリルの形に変えた。
「ねぇ、%(8.♪6.♪%8(。このドリルって、まるで星をも貫き通せそうな姿をしてるよね?」
「多分、僕には君を2.9.せない。でも、それでも。」
愚者は覚悟を決めた吐息をつき、目の前にいた彼を見つめ、最後の言葉をかける。
「あいつと一緒に死ぬ為に、其に辿り着く為に、あの子が笑っていられる為に。
そして、この世界に生きる者達が、生きていて良かったと思える為に、君を倒す!!」
祈りの果てに、愚者は笑った。
プロゲーマーにボコボコにされた、苦笑いのように。
旅の果てに、愚者は笑った。
先に逝ってごめんと、誰かに伝えるように。
世界を見守る柳の木の下で、愚者は静かに眠りについた。
お題『祈りの果て』×『愚者』
「無人島に行くなら、あなたは何を持って行きますか」
スーパーボールの様に弾けた声が、辺りに響く。
△△が本を読む目を上に向けると、そこには××が居た。
放課後の誰も居ない教室。
黄昏の光が、教室にいる二人を照らしている。
オレンジ色の髪をさくらんぼの様にまとめた××と、栗色の髪をねぼすけの様に散らした△△。
2人っきりの教室、何も起こらないわけがなく…
この言葉に続くようなことは、起きなかった。
「聞いてるの?無人島に!行くなら!」
「聞いてるよ、うるさいなぁ。えー無人島?」
「そうそう!因みに私は災害用リュック」
「思ってたより現実的な物だった。うーん、そうだな」
△△がその答えを言おうとし、天井を軽く見つめる。
「それだったら、僕は…」
答えを伝えようと、視線を元に戻し、話しかける。
いや、話しかけられなかった。
何故ならば彼女の姿は目の前になく、辺りは教室ではなく、海と砂浜だったからだ。
「は?」
その声は、そばにある水の音にかき消され、虫の鳴き声に蝕まれる。
蒸し暑い風が制服を揺らし、ギラギラと照りつける日差しが喉にスリップダメージを与える。
2人っきりの教室、何も起こらないわけがなく…
本当に、"何か"が起きてしまった。
お題『無人島に行くならば』×『俯仰之間』
「ねー早く行こうよー」
桜色の髪をした青年が、ジェラート片手に苦言を落とす
目の前には、同年代の学生が二人。
よもぎの様な髪色の青年と、まんじゅうの様な髪色の少女が、バチバチと雷を浮かべて睨み合っていた。
「あんたがスペルミスさえしなければ、赤点から逃げられたのに!」
「うるっせ!お前が『お互いに得意なやつカンニングしようよー』なんて、誘わなければこうなってなかっただろうが!」
「いやー二人とも勉強ちゃーんとしてれば、よかったんじゃーないのー」
「正論ぶつけないでもらっていいかな、学年三位。いいわよね、あんたは頭よくってさー!」
「あー火にあぶらを注いじゃったかー」
緊張感なんてゴミ箱に捨てたかの様に、ぺろぺろとジェラートを食べる。
「あーあ、またこうなっちゃったか。」
青年がジェラートを食べ終わり、コーンを床に落とす。
「どうしたんだ?」
彼の言葉など聞かず、それを足でぐしゃりと踏み潰した。
「な、なによ。嫌味言って傷ついたの?」
「んーちがうよー。ただ…」
ぐしゃりと、噛みちぎられる音が聞こえる。
「君たちが、化物に殺される未来を、変えられなかったなーって。」
不思議な石をポケットから取り出し、心臓の位置に構える。
「じゃあね。また会おう」
ねっとりと、もう飽きたかの様な、同じものを食べ続けたかの様な。
そんな声をこの次元に残し、彼の姿が消え去った。
お題『秋風』×『ねっとり』