ハクメイ

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2/24/2026, 12:25:05 PM

「其よ!どうか、どうか我が子を抱いてください!」

暗い部屋で、そんな声が響いた。
足元に置かれたランタンの、ほんの少しの灯りだけが、地面から生えた草をほんのり照らしている。
部屋の奥を見ようとしても、ただただ深淵が広がり、頭痛がしてくる、そんな部屋。

そこに跪いていたのは、一人の女性だ。
とくに派手さを感じない質素な服で、目の前の暗闇に差し出すように、赤子を捧げていた。

「お願いします其よ!我が子の体は、病気に呑み込まれています。其が抱いていただければ、きっとこの子はたくましく生きれるんです!」

その声に応じたのか、暗闇から二本の腕が現れた。
それは人間のような腕だが、墨ように黒かった。
湯気のような黒いモヤが、常時腕から発せられている。
その腕は、赤ん坊をそっと受け取り、優しく、弱々しく、頭を撫でた。
赤子を捧げた女性は、手を胸の前で組み、目をうるうるとさせながら、その光景を眺めていた。
笑みを浮かべていた。

やがて漆黒の腕は、女性に赤ん坊を返した。
女性はめいいっぱいに感謝をし、頭(こうべ)を垂れ、その部屋を去った。
女性と入れ違いで、誰かが部屋に入った。
その人物は、黒いスーツを纏った、人型のドラゴンだった。鱗は蒼く、目は真っ赤だ。

スーツ姿のドラゴンは、目の前の暗闇に向かって
「すまんな、狂(きょう)。今にも狂い死にそうだったから、通してしまった」
暗闇から、弱々しく、優しい声が
「ううん、大丈夫だよ。ねぇ、こんなに存在が消えかかっていて、こんなに狂った神の手に、価値なんてあるのかな」
と、自身を卑下した。
ドラゴンは、ため息を吐き、当たり前のことを言った。
「彼女が誇りと思うなら、価値があるのさ。
ほら、とりあえず活動報告をするぞ。今回の作戦で、想教(そうきょう)の天使の大多数が、堕天使となった。
彼らの思考を、更に狂気に呑み込ませるために…」

ヴィラン達の、静かな作戦会議が始まった。


お題『小さな命』

2/19/2026, 2:11:48 PM

いっとう強い風が吹いた
周囲にある、彩り豊かな葉をつけた木が、その風に負け、がさがさと音を鳴らした。
地面に積もった枯葉が、紙吹雪のように散らばる。

そんな光景を、一人の女性が、木によりかかりながら、静かに見ていた。
クリーム色の髪が腰まで伸び、波のように、ウェーブがかかっている。
柔らかく、それでいて大人びたその顔とは裏腹に、腰のベルトには、一本の長剣が刺さっている。
銀色で、持ち手の少し上には、大きな天秤が装飾として施された、売ればお金になりそうな剣。
女性は満足したのか、木にかけていた体重を戻し、枯葉で隠れた道を、ゆっくり歩き始める。

「罪斬(ざいざん)。枯葉って、寂しいね」
女性は、剣に答えを求めるまでもなく、すぐに話し始めた。
「せっかく木と生涯を共にすると決めたのに、風なんかに負けて、離れ離れになるんだもの」
木と枯葉と、女性と剣を、強い風が揺らした。
「ねぇ、君は…私が死ぬまで、私のことを見続けてくれるよね?」
枯葉が、木にぶつかって動けなくなっていた。

お題『枯葉』

2/18/2026, 1:53:06 PM

「やめてくれ…やめてくれぇ!!」
ススキ林に、悲鳴が鳴り響いた。
黄金色がめいっぱい広がり、大の大人が埋もれてしまうほどのススキが、風に従って揺らめいている。

誰かの情け無い命乞いが聞こえた後、断末魔と、ぐしゃ、という音が聞こえた。
それから暫くして、少し離れた、ススキ林の終わりから、誰かが姿を表した。

二本足に、二本の腕、頭部が一つで…見るからに、人間だった。
その人間は、虚な眼で振り返り、自分が通ってきた鈴木林を見つめた。
右手には、銀色の長剣を手に持ち、左手には、銀色の天秤を手に持っている。
長剣には、赤い液体がべったりと付着している。

振り向きは数秒にも及ばず、すぐに頭を戻して、二つの手を近づけた。
剣と天秤は、すぐさま一つとなり、天秤がついた銀の長剣へと姿を変えた。
人間はその剣を、腰に巻いたベルトに固定して、身なりを整える。

「行こう」
その言葉を受け、人間は足を動かし始めた。
まるで、剣に取り憑かれているかのように。


お題『今日にさよなら』

2/17/2026, 1:20:40 PM

朝日が照らす公園内に、ジャージ姿の青年が居た。
銀髪の青年は、入念に準備体操を行なっている。
屈伸や軽いジャンプ、ふくらはぎを伸ばし、体を横に曲げようとしたその時

「お前はいつも、これをしているな」
と、女性か男性かわからない声が聞こえてきた。
「毎日の鍛錬は、欠かせないっすからね〜。
そういや、いつも指輪の中にいて、白黒(はっこく)は酔わないんすか?」

右手の中指に嵌められた、指輪に向かって話しかけた。
指輪には、少し大きな石があてがわれており、白と黒の濃淡がまるで煙のように動いている。

「酔わないよ。こんなんで酔ってたら、お前が私を振り回す時に、使い物にならないじゃないか」
「確かに、それもそっか」

青年は準備体操を終え、指輪に付いている石に、そっと触れた。
すると、指輪はたちまち姿を変え、青年の背丈と同じぐらいの槍に変貌した。
戦争で使われていそうな槍で、持ち手は指輪に付いていた石と同じく、白と黒の濃淡が蠢いている。

「ついでに聞いても良いか」
「なんすか」
「お前、いつも私を槍にしてるよな。槍がお気に入りなのか?」

青年は、あーと言って考えこみ、答えた。
「かっこいいから」

白黒の、聞かなきゃ良かったという顔が、簡単に思い浮かべられた。


お題『お気に入り』

2/16/2026, 1:29:32 PM

陽が沈みかけ、薄明の空が広がる田舎道。
そこを、一人の女性が、車椅子を押しながら歩いていた

車椅子に座っているのは、薄紫の髪を伸ばし、空色の眼をした女性だ。
足が膝上でなくなり、黒いスーツが、この人はこれが正解だと見せつけるような、そんなオーラを放っている。

車椅子を押しているのは、茶色の髪をおだんごでまとめ、黒いスーツが似合わない女性だ。
二人のスーツの胸元には、同じ盾の刺繍があしらわれている。

「生命(せいめい)さん、今回もサポート、ありがとうございます。私一人だったら、何もできなかったです…」
車椅子を押しながら、彼女は言った。
生命と呼ばれた、車椅子の女性は
「なに、喝を入れただけだ。それよりも走勧(そうか)、随分と手際が良くなったな。流石だ」
「そ、そそそ、そんな!う、嬉しいですぅ!」
走勧と呼ばれた女性は、ハンドルを持つ手に力が入った

「走勧、お前の正義はなんだ?」
「正義、ですか?それは勿論、"命と権利を守ること"です。当たり前のことを聞いて、どうしたんですか?」
生命は、軽い笑みを浮かべた。

「いや…なんでもない。ただ、誰よりも正義を狂うほど信じているお前が、誇らしいなと思っただけさ」

お題『誰よりも』

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