海月 時

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5/16/2024, 3:06:35 PM

「ずっと一緒だよ。」
彼女が言う。僕は小さな声で、嘘つきと呟く。

「私、もうすぐで死ぬんだ。」
彼女は涙目になりながら、平然を装うように言った。やっぱり。薄々気づいていた。それでも、知らないフリをして黙っていた。彼女の死が怖かったんだ。そんな足掻きは、今では無だ。僕たちは、静かに泣いた。

僕は最後の日まで、彼女のそばに居続けた。だんだん弱っていく彼女を見るのは、心が痛んだ。それでも、見届けないと。それが彼女を愛したものの義務だ。僕は、彼女の前では、涙を堪え作り笑顔を貼り付けた。

彼女の死から何日が経っても、僕の世界は真っ暗だった。それほどまでに、彼女の存在は大きかったのだ。
「愛は世界を救う。なんて、馬鹿らしいよな。」
愛があっても、彼女は救われなかった。世界は残酷だ。綺麗事ばかり並べやがって。僕は世界を睨みつけた。
『君はすごいね。世界に向き合えているんだね。』
懐かしい声に、振り向く。そこには、彼女が居た。
『私は逃げてばっかだったな〜。死ぬのが怖かったんだ。でもね。君のお陰で私は、息ができたんだよ』
ありがとうと彼女は言い、姿を消した。

僕は今、君が死んだ病院の屋上に居る。
「僕も、世界が現実が怖いよ。でもね。君が僕の太陽になってくれたから、僕は生きれたよ。」
愛してると言った。愛なんて幻想に過ぎない。愛があっても何も変わらない。それでも、今日だけは愛に感謝した。愛があったから、僕は彼女の下に逝けたんだ。

5/15/2024, 2:49:00 PM

「大嫌いだ。」
俺が言う。しかし、アイツは笑っていた。

「お前なんか消えてしまえ。」
両親が俺に言う。今思えば、昔から両親に愛された事はなかった。俺の弟は、生まれつき病弱だった。学校にもあまり行けていなかった。それなのに、あいつは天才だった。大人でも手こずるような問題も余裕で解けてしまう。俺とは正反対の弟。当然ながら、両親は弟を愛し、出来損ないの俺を忌み嫌っていた。俺がどれだけ努力しても両親は俺を見ることはなかった。
「何で産まれてきたんだ?」
父からの言葉だ。その言葉を聞いた時、俺の中の何かが千切れる音がした。

気付いた時には、俺の周りは赤い水溜まりが広がっていた。俺は両親を殺したのだ。人を殺したのに、俺の頭は落ち着いていた。重りが消えたように、心が軽かった。
「お前らが勝手に産んだガキに殺されて、ざまぁねーな!地獄に堕ちやがれ!」
何を言っても返事は来ない。なんて良い日なんだ。だが、俺にはやり残した事がある。俺は弟の部屋に向かった。

部屋に入ると、弟は俺の異変に気付き、顔をしかめた。
「父さん達は?」
「殺したよ。お前も後を追わせてやる。」
弟は、そっかと呟き、悲しそうに俺に聞いた。
「僕の事、嫌いだったの?」
「大嫌いに決まってるだろ。」
「僕は兄ちゃんの事、大好きだよ。だから、兄ちゃんに殺されるなら、いいよ。」
いざ殺そうとすると、手が震える。それでも、俺は自分のために弟を殺した。

何日、何ヶ月過ぎても俺は捕まらない。弟を殺した時は、後悔した。今でも思う。俺が変な意地を張らなければ、生きている内に仲良くなれたのかな?でも、もういいんだ。
『兄ちゃん!』
弟が呼ぶ。生前では考えられない程、活発な弟。俺はそれが、どんなことよりも嬉しかった。結局は、弟が大好きなようだ。俺達は、死んでも兄弟なんだ。

5/14/2024, 4:05:48 PM

「タンポポっていいよね。」
突然そんな事を言う彼女。俺はどうしてと聞いた。
「目立たなくても、力強く生きている所。」
この理由を聞いた時、俺の胸は張り裂けそうだった。 

彼女との出逢いは、病院での事だった。俺は定期検診のために、よくここに訪れていた。待ち時間が長く退屈だったので、中庭に行くことにした。そこには彼女が居た。彼女は病衣に身を包んで茂みに腰を下ろし、タンポポを眺めていた。その表情は優しさに包まれていた。気付いた時には話しかけていた。彼女は見ず知らずの俺に優しくしてくれ、俺達はすぐに仲良くなれた。そして、彼女の病気について知った。
「もう長くないんだ。だから、花を植えようと思って。」
彼女の思いに涙が出そうだ。そして俺は気付いた。俺は彼女に恋をしている。彼女にとっては迷惑な話だろう。だからこの思いは胸に閉まっておこう。その代わりに俺は、突拍子もない事を口にしていた。
「それなら、俺は君の花を守りたい。」
その言葉を聞いて彼女は、笑顔で涙を流していた。

彼女の死から数ヶ月が経過した。彼女と植えた花、タンポポは彼女の墓の前で生い茂っていた。彼女もこんな風に生きれたらいいのに、なんて何度も考えた事だ。きっと俺はまだ、彼女の事が好きだ。しかし、どれだけ思いが強かろうと状況は変わらない。世界の残酷さに嘆き続けた。それでも、タンポポは綿毛に成長し、風に乗って飛んでいく。知らない場所で力強く生きていく。
「眩しいな。」
そう呟いた時、俺は泣き崩れた。

俺は今日、綿毛のように風に身を任せて、彼女の下に飛んで逝った。

5/13/2024, 3:38:30 PM

「ごめんね。」
泣きながら言う彼女。俺はただ、笑っていた。

「好きです。付き合ってください。」
俺は、幼馴染であり初恋の相手でもある彼女に告白した。彼女は俺の告白を受け入れてくれた。聞くに彼女も長年片思いを拗らせていたらしい。俺達は、知らない間に両片思いだったんだ。今日から彼氏彼女という嬉しさでどうにかなってしまいそうだ。これから素晴らしい日々が待っている、そう期待していたのに。

彼女が交通事故に遭い、亡くなった。俺の世界が壊れる音が響いた。何度も泣いて、何度も自殺しようと思った。その度に彼女は俺の目の前に現れた。
『生きて。私の分まで。』
それだけ言って消える彼女。君の言葉を聞くと生きたくなってしまう。本当に魔法みたいだ。

俺は今日も、彼女に逢うために自殺をしようとする。馬鹿げた行動だ。それでも、彼女に逢いたい。その一心で生きてきた。今日も彼女が止めに来る。その言葉を遮り、俺は彼女に言う。
「君が好きだ。この先だって、君以外を好きになんてなれない。だから、君に逢いに逝きたいんだ。」
彼女は泣いて、謝っている。少し言い過ぎたかな。でも、これが本心だ。俺は、笑っていた。彼女の真面目さは変わらない。
『私だって君と生きたかったよ。』
小さな声で言う彼女。同じ気持ちに頬に熱が上がる。
「ありがとう。それを聞けただけで満足だよ。暫くは生きてみるよ。…またね。」
彼女は笑った。しかし、彼女の目には大粒の涙がある。きっと、俺も同じ顔をしている。

あれから何年経っても、彼女への思いは健在だ。今日も俺は、彼女と行った場所を巡っている。そうやって俺は彼女との失われた時間を紡いで生きていく。

5/12/2024, 3:09:17 PM

「私の事、ずっと守ってくれる?」
彼女が夢の中で言う。またこの夢か。僕の目は潤んでいた。そして小さく、ごめんと呟いだ。

「大人になったら結婚しようね。」 
子供の頃にした彼女との約束。彼女とは、保育園の時に出逢った。年長の男子に虐められているのを、助けたのが始まりだった。それからは、毎日喋っては遊んでいた。今思えば、あの時から僕は彼女の事が好きだったのだろう。突然の彼女からの告白も受け入れた。これからもずっと一緒だと喜んで浮かれていたのに。

彼女は今、仮死状態だ。階段から転んだ際、打ち所が悪く目を覚ます可能性は極めて低いと、医者が言っていた。彼女が転んだ時、僕はすぐ近くに居たのに、助けれなかった。約束したのに、守れなかった。僕は何度も彼女に謝った。それでも、彼女からの返答はなかった。その事がより、僕に現実を見せてきた。

あれから数年。僕は高校生になった。今日も僕は、君の病室のベットの前に居る。君は子供のままだ。 
「僕だけ大人になっちゃったね。」
答えはない。とうとう僕は、溜まっているものが溢れた。
「目、覚ましてよ。君が居ない世界は冷たいよ。もう生きたくないよ。」
涙が溢れる。その時、ほんの少しの温もりを感じた。顔を上げると、幽霊のように透けている彼女が居た。
『泣かないでよ。私は居るよ。ずっと君の傍に。だから、笑って?私の大好きな笑顔で。』
僕は下手くそな笑顔を見せた。安心したように笑い、彼女は消えた。

あれから何年が経っても、彼女への思いは消えない。僕の心はずっと子供のままでいる。それでもいい。彼女はこんな僕を認めてくれるはずだ。今日も僕は、彼女の墓にキキョウの花を贈る。

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