海月 時

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7/22/2024, 2:39:36 PM

「生きて。」
そう言って微笑む彼女。本当にずるいよ。

「ドラえもんの道具で、どれが一番欲しい?」
唐突な質問。彼女らしいと言えば彼女らしいが。
「私はね〜。タイムマシン!未来の自分がどうなってるのか知りたい!」
定番だな。僕がそう言うと彼女は、拗ねた顔をした。しかし、すぐに笑顔に戻る。こんな他愛のない会話が、ずっと続くと思っていた。

「大丈夫だよ。泣かないで?」
そう言って微笑む彼女。彼女の体は赤く染まっていた。先程、僕を庇って、信号無視の車に撥ねられた時にできたものだった。僕のせいで彼女が。それなのに只、泣く事しかできない自分を恨んだ。
「私の分まで生きてね。これは命令だよ。」
そう言って彼女は、僕の手の中で死んでいった。彼女が死んで数分後に救急車は到着した。

あの日から僕の世界は真っ黒だ。何度も死のうと思った。しかしその度に、彼女の言葉を思い出す。生きてだなんてずるい言葉。言われた側の気持ちを知らないで。本当に苦しいんだよ。でも、死ねない。このループが僕の人生を回る。きっとこの苦しみは、僕の贖罪だから。

もしもタイムマシンがあったら、僕は過去と未来の両方に行きたい。過去に行って、自分が生まれるのを阻止したい。未来に行って、彼女が僕が居なくても幸せかを知りたい。でも、叶わない。ならば今の苦しみを耐えて、来世で彼女と恋をする資格が欲しい。

7/21/2024, 2:45:26 PM

『ようこそ、生人図書館へ。何をお求めかい?』
「私の愛する彼の未来が知りたいの。」
『あぁ、あいつのか。いいぜ、死人みたいな姉ちゃん。』
「初対面の私に死人って失礼じゃない?」
『知るか。それで本題に入るよ。あいつは一生涯、誰とも添い遂げぬまま老いてゆく。』
「そう。」
『もっと喜べよ。恋人が誰にも取られないんだ。』
「喜べないわよ。彼が幸せになれない未来なんて。」
『それもそうだ。あいつはお前と結ばれる事を望んだんだからな。お前が死んでたら幸せなんてなれない。』
「やっぱり、知ってたのね。」
『あぁ。お前の事もあいつの事も、知っていたさ。』
「あいつの事って?」
『まだお前が生きていた頃、あいつはここを訪れた。そして、俺に聞いた。お前の未来を。』
「そんなの初めて知った。」
『だろうな。惚れた女の死を知ったら誰だって黙る。』
「じゃあ悪い事をしたわ。先に死んじゃうなんて。願いが叶うなら、彼との日々に戻りたい。」
『残念ながら、俺は神じゃなくて司書だ。願いは叶えられねー。でも、その本はやるよ。』
「いいの?」
『特別だ。未来はいつ変わるかわからない。それを持って、監視しとけ。浮気されたら復讐してやろうぜ。』
「いいわね、それ。」

『今一番欲しいものはなんだ?それに手は届くか?お前は欲しいものを手に入れるために、どこまで墜ちれる?』

7/20/2024, 3:08:11 PM

「親から貰った名前なんだから、大切にしなさい。」
うるさい。何でお前らは名前が大切に思えるの?

【貴方の名前の由来は?】
中学校の頃、家庭科の課題で出されたプリント。その中の一つに、名前の由来の欄があった。俺は両親に聞いた。
「俺の名前の由来って何?」
「そんなのないよ。適当につけた名前だからね。」
その言葉を聞いた瞬間、時間が止まった。姉二人には理由があったのに、何で俺だけ。手が震えた。結局、名前の由来は書けずに提出した。

あの時から、俺の中でモヤモヤが消えない。家族から先生から友人から、名前を呼ばれる度に苦しくなった。もう辞めろ。俺の名前を呼ぶな。俺が無意味な存在みたいじゃないか。こんな名前で呼ばれるくらいなら、死んだほうがマシだ。

海月 時。これが今の俺の名前。自分でつけた意味のある名前。俺はこの名前が好きだ。
【海として地球の一部になり、月として宇宙の一部になれたのなら、俺の時間は未来へと移り変われる。】
海月時として生きる時、俺は酸素が吸えた。きっと馬鹿馬鹿しいと笑う奴も居るだろう。例え何と言われようと、俺は自分を殺してでも、自分が愛した名前と生きる。

7/19/2024, 3:08:23 PM

『ようこそ。生者の未来を記す図書館、生人図書館へ。何をお求めかい?』
「いつも僕を虐めてくるあいつの、未来が知りたい。」
『知ってどうする?より惨めになるかもよ。』
「どうするかは、知った後に考えるよ。」
『喰えないね〜。先に言っとくが、未来はコロコロ変わる。見た内容が、本当かは分からない。』
「分かったよ。」
『お前を虐めてる奴は、結果から言えば成功者となる。』
「…世界って、不公平だね。」
『そうだな。でも、俺はこの世が好きだな。不公平だからこそ、自分の欲を解消できるってもんよ。』
「そうかな。そうかもね。」
『おい、どこに行く気だ?』
「どこって、帰るんだけど。」
『何言ってるんだ?ここからが本題だろ。』
「何だよ?」
『復讐だよ。とりあえず、今までの借りを返そうか。』
「そんな事しても意味がない。それに、そんな事して僕が捕まったらどうすんだよ。」
『じゃあこのまま、惨めな姿で生きるか?それも面白いかもな。』
「何が言いたい?」
『どっちに転ぼうが、お前の未来は暗闇だ。それならば、この世の不公平さを叫びながらが良いだろ?』

『視線の先に暗闇しか見えなくても、お前は前に進めるか?お前の復讐という喜劇の物語を読みながら、本日もお待ちしてます。』

7/18/2024, 4:15:55 PM

「何がしたいんだよ。」
焦った声で彼が聞く。私の願いは只一つだけだ。

「こんばんわ。死んでください。」
私は見知らぬ彼に、刃を向けた。しかし、彼は微動だにしなかった。
「殺したいなら、殺せ。」
彼は何事もないかのように言った。違うんだよなー。これでは、面白くない。抵抗する相手を殺す事が、楽しく面白いのだから。
「やっぱり、辞めときます。」
私が立ち去ろうとした時、彼は少し焦ったように言った。
「自己中な野郎め。何がしたいんだよ。」
「貴方は何がしたいんですか?」
彼は少し間を空けて、私に話し始めた。
「死んだ女房と娘に会いたいんだよ。あいつ等、俺を残して事故で死んじまった。俺は何度も自殺しようとしたが、震えが止まらねーんだ。そんな時にお前が現れた。」
「そうですか。」
私は考えた。死を望む彼に、どのような苦しみを与えようか。私を死んだ理由に使おうとした罪は重い。
「それで、お前は何がしたいんだよ。」
「私ですか?そうですね。」
名案を思いついた。面白さもスリムも、絶望も満点。僕は自分の腹に刃を立てた。
「貴方は自分で死ぬ事ができず、一生どん底に居てください。貴方のような人間には、惨めな姿が似合いますよ。」
「何故そこまでする?」
「笑っていたいから。」

昔から夢見ていた。世界が終わる最後まで、笑うのは私だけが良いと。そのためなら、私はどんな大罪も怖くない。さて、これからどうしようか。まずは、神でも殺そうか。

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