海月 時

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11/4/2024, 3:12:58 PM

「良い曲だね。僕は、結構好きだな。」
こんな暗い曲を、君だけは好きだと言ってくれた。

「ミュージシャンだなんて、馬鹿な事を言うな。」
幼い頃から夢見ていたものは、誰かの言葉によって、音を立てて崩れた。でも、悔し涙は出なかった。きっと薄々気付いていたんだ。私には、誰かに勇気を与える、そんな音楽は作れないんだと。だから、これで良かったんだ。早めに気づけて良かったよ。でも、ギターも作曲ノートも捨てる事は出来なかった。

そんな私を見て、幼馴染の彼は泣いてくれた。私の曲をいつも聴いてくれた、唯一のファン。
「この曲、今までで一番好き。」
そう言って、どんな暗い曲でも楽しそうに歌っていた。
「ねぇ、大人になったら、二人で音楽を作ろうよ。僕が作詞、君が作曲。良いでしょ?最高の二人になるよ。」
そんな叶わない夢を笑って話していたっけ。でも、ごめんね。もう君と夢を語る私は、死んじゃったみたいだ。
「そんな事、言わないでよ。生きてるなら、命があるなら、叶わない事なんてないでしょ?」
彼だけは、夢を諦めなかった。だから私も、もう一度頑張ろうと思ったよ。でも、もう立ち直れない。

だって、君が死んじゃったんだから。

私がもう一度夢を目指そう、そう思い立って、真っ先に彼の家に向かった。しかし、彼の家には彼は居なかった。出てきた両親は、目を赤くしていた。そして、彼の身に起きた悲劇を話してくれた。私は、それを聞き、その場に座り込んでしまった。そして、夜が明けるまで泣き続けた。

今日は、彼の葬式の日。私はギターを持って、出かけた。そして、彼の遺影の前で、ギターを奏でた。すぐに、大人が止めに来たけど、私は奏で続けた。哀愁を誘うような曲を。彼が好きだと言った曲を。彼を悼むレクイエムを。

10/31/2024, 3:01:22 PM

「全部、好きなんだ。」
物心ついた時から、〝嫌い〟の一言が言えなかった。

「欲しい物、全部買ってあげるよ。」
裕福な家庭に生まれた私。両親と兄二人と私の五人家族。家族は皆、私を目一杯可愛がってくれた。私が好きと言った物は、何でも買い与えてくれた。そのせいで、私の部屋は物で溢れかえっていた。きっと、誰もが羨む生活。でも私は、心の何処かで息苦しさを感じていた。

「これ、貴方好きでしょ?」
「これ、お前似合いそうだろ?」
家族が各々、私に物を与える。
「ありがとう。全部、好きなんだ。」
私は笑顔で、受け取った。

私は、高校生になってから、夜な夜な家を抜け出すようになった。誰かとの約束がある訳でもなく、只一人で散歩をするだけ。だって、あの家は、あの部屋は、息が詰まってしまう程に苦しいから。
『貴方の好きは?貴方の願いは?』
何かのドラマのポスターに書かれた言葉。私は、何のために生きてるんだっけ?

私は、嫌いだったんだ。不自由のない生活が。全て与えられる現状が。全部、全部、大っ嫌いなんだ。それが、理解できると、何だか心が軽くなった。そして、何かを見つけた気がした。
「はは…。全部分かってたんじゃん…。」

私が望むのは、〝無の理想郷〟だ。

10/29/2024, 2:47:17 PM

「付き合ってください。」
彼女からの一言で、俺らの物語は始まった。

「将来は、君のお嫁さんにしてくれますか?」
物語の中盤。彼女は、頬を染めながら、俺に尋ねた。俺は、彼女を抱きしめながら言った。
「もちろん。だから、この指は残していてください。」
俺が言うと、彼女は更に赤くなった。その姿が、とても愛おしかった。
「卒業したら、一緒にサイズ測ろうね。」
俺がからかうように言うと、彼女は拗ねてしまった。それでも、小さく頷いてくれた。あぁ、俺はなんて幸せなのだろう。ずっと、この幸せが続いて欲しい。そう心から願った。

しかし、人生思い通りにいかない。彼女は交通事故に遭い、この世を去った。ここで、俺らの物語は幕を閉じた。

俺は部屋の外に出れなくなった。外に出ると、彼女との思い出が散らばっているから。そんなものを思い出してしまったら、きっと俺は立ち直れない。俺は、部屋の隅に蹲ったまま。傍には、彼女に渡すはずだった指輪。
「内緒にしてたのになー。」
時々、考えてしまう。あの事故がなかったら、俺達はずっと幸せだった。そんな起きない、もう一つの物語。あぁ、俺はもう駄目みたいだ。

10/23/2024, 2:58:32 PM

「もう、いいや。」
そう思った時、僕は空の近くまで上がった。

「なぁ知ってるか?アイツ親が居ないんだとよ。」
学校の奴らは、僕を見てクスクスと笑った。確かに僕の両親は、随分と前に交通事故で亡くなった。人間って単純な生き物なんだ。自分より優れている者を妬み、自分よりも劣っている者を罵る。だから、彼らとは違って親無しの僕は、罵っても良い人間なのだ。
「もう、学校に来んなよ。」
どうせ、来なかったら弱虫だって罵るくせに。本当に面倒くさい。あぁ、気持ちが沈む。空だって、こんなにも淀んでいる。…でも本当に、疲れてきた。

「もう、いいや。我慢するのは、もういいや。」

僕は今、高層ビルの屋上の縁に居る。今から僕は、解放される。きっと天国に居る両親は、馬鹿な子だと言うだろう。それでも、そんな馬鹿な子を産んだのは、アンタらだ。責任を持って、死んでも良いよ、って言えよ。馬鹿でも愛せよ。
「久しぶりに、酸素を感じるよ。」
高層ビルの屋上なんて、酸素が少ないはずなのに。何でだろう。清々しいような、満ち足りているような。そんな感じ。あぁ、そうか。これが生きているって事なんだね。
「はは…。涙が止まらないよ。」
あれ程淀んでいた空は、どこまでも続く青色だ。

僕は、足を前に出し、空へと舞った。

10/21/2024, 2:26:00 PM

「君はいつも、何を我慢しているの?」
彼に言われた言葉。私は何も言えなかった。

「おねえちゃんに似て、優秀な子ね。」
母は私の頭を撫でながら、優しく微笑んでくれた。
「真面目で素晴らしい。」
父は私を、大きな声で称賛した。でもな、何かな。何かが痛いんだ。なんでなんだろう。

「ねぇ、そこで何しているの?」
自宅の高級マンションの屋上。高級が付くのが納得するほどに、綺麗な景色がそこにあった。そんな景色を眺めていると、突然男の子の声がした。私は振り返ると、無愛想に私を見つめる彼が居た。彼は確か、同級生の。私は笑顔で、言う。
「今から、死ぬの。」
彼は、だろうね、と呟いた。
「何で、君みたいな優等生が自殺なんかするの?」
「疲れたんだよ。優等生を演じるのも、笑顔を作るのも。何もかも。君には分からないよね。」
分かってたまるか。彼みたいに、何もしていないような奴に。優等生は劣ってはいけないの。劣ったら、落胆されるの。私はそれが怖い。
「分からないよ。でも、君が頑張ってきた事は分かる。」
彼は澄んだ目をしていた。まるで全てを肯定するような瞳だった。
「ねぇ、君はいつも、何を我慢しているの?」
「そんなの知って、君に何か得でもあるの?」
「ないよ。でも、君の苦しみを半分個に出来る。」
なにそれ。つい笑ってしまいそうになる。コイツ、意外と良い奴だったんだ。
「頑張りすぎてたんだね。もう大丈夫だよ。」
私は、彼に言われて初めて気づいた。私は泣いていた。

その日、私は声が枯れるまで泣いた。彼はそんな私の傍に居てくれた。泣き終わった時、少し恥ずかしかったけど。それでも、何かが軽くなった気がした。

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