冬の始まりに生まれたばかりのわたしは、社宅の部屋が15℃を下回ると必ずぐずっていたと父から聞いた
むずかる理由をあれこれ検討して気温にたどり着いたのがとても父らしい
今でも毎年15℃を境に小さいわたしが冬へと走り出すのだ



: 冬へ

わたしが今見ている月は約7時間後に君を照らし
そこから17時間後に私のところに帰ってくる
明日も明後日も、もっと先も同じように
あと数百回それを繰り返した頃に、ようやく君とわたしの見る月が二人を照らす



: 君を照らす月

遠い昔、希死念慮を好きな人に言ってしまった時、どうしても無理になったら私が手を下してもいいからそんな事これ以上考えるなと、その甘い一言がいつでも押せる核のスイッチ的なモノを握っていると思わせてくれて生き方が変わったけど、恋は実らなかった



: ささやかな約束

見上げた斜面は柿色一色で、その向こうに一面青の深い空がある
あの日と変わらない景色が遠い記憶と一気に繋がって頭と心をいっぱいにした
思い出と今は地続きでこれからもそうなのだとわかった


: 祈りの果て

にんげんとティーカップの関係はとてもパーソナルだから、にんげん1人に対してカップは必ず1客
テーブルの上にお茶の注がれたティーカップが2客あれば、そこににんげんは2人いることになる
あなたには1人しか見えていなくても、2人だ



: ティーカップ