「団長、旦那さま帰って来られましたよ」
そう声を掛けられて急いで玄関に向かう。
彼は仕事の関係で遠方に出掛けてた。
毎日通ってた訪問がないのはやっぱり物足りなさがある。
急いだその先に見慣れたその笑顔。
玄関先で彼はいつものようにそこに居て。
「なんだそんなに急いで出迎えてくれて。そんなに俺に会いたかったのか?」
にやりと笑いかけてくる。
そんな彼の脇をすり抜けて彼の乗って来た車の荷台の周りをくるくる見て回る。
「何かお土産ないですか?」
「このヤロ!久しぶりに会った友よりお土産とはひどい奴だ」
怒った調子で腕を振り上げて殴る真似をする。
それをひょいと避けて荷台を覗き込む。
「ちゃんと買って来たから落ち着け」
「君の好きな塊肉もあるぞ」
旦那の方を見ると穏やかにこちらを見て笑っていた。
久しぶりだなこの笑顔。
やはりこの顔を見ないと落ち着かない。
「旦那。無事に帰って来れて何よりです」
手を差し出して笑顔でそう返すと
「憎たらしいな。俺より土産の方が魅力的なのか君は!」
ひょいと肉をわたしの方から遠ざける。
笑ってはいるけど少し拗ねた様子にも見えた。
「そんな事ないけど肉は美味しい」
にこりと笑い返す。
旦那は苦笑いをして見つめ返して来た。
「まぁいいさ。たくさん食べてくれ。みんなの分も買って来たぞ。運び込んでくれ」
荷台にはたくさんの食べ物や雑貨が載っていた。
その声を合図に団員が次々と家の中に運び込み出した。
それを避けて旦那と見守ってると、思い出したように旦那は車の中から何かを取り出した。
「これを君に」
目の前に差し出されたのは豪奢なかんざし。
「これは…?」
「露店で見かけたんだがお前に似合うと思ってな。機会があったら舞台でも付けてくれ」
そっとそれを受け取るとキラキラと光るそれをまじまじと見つめる。
「気に入らなかったか?」
心配そうに顔を覗かれる。
「いや…大事に使わせてもらうよ。ありがとう」
ぎゅっと手のひらの中に包み込む。
「それはそうと…中に入れてもらえないのかな?出先から急いでどこにも寄らずにここに来たのだが」
「あぁそうだな。我らが財神を招き入れてもてなさなくては!!」
「君は俺の懐しか興味ないのかい」
やんわり笑われる。
「俺の居ない間君は何してたんだ?聞かせてくれよ」
「俺が居なくてもちゃんとやってたか?」
やっぱり旦那の笑った顔は落ち着くな。
「旦那なんか居なくてもわたしの演技は完璧です」
この数日旦那に会えなくて寂しかったよ。
顔が見れて嬉しいよ。
言葉には出さないけど。
すごく会いたかったよ。
🍁(君に会いたくて)
びーえるかな。
無理矢理開けないで欲しい。
せっかく閉じたのだから。
お前に対する気持ち悪いこの想い。
「なぁ最近お前変じゃね?」
「別に普通だよ」
ふいに覗き込まれて咄嗟に目を逸らす。
想いを押さえ付けている蓋が剥がれ落ちそうだ。
「明らかに俺を避けてるよな?」
間を詰めてくる距離が近い。
離れろよ。
距離を空けようと後ずさるが詰め寄ってくる。
お願いだから離れてくれ。
「気のせいだよ」
咄嗟に右手で彼の胸をやんわり押しやる。
その手を掴まれて逆に逃げれなくなった。
そのままの姿勢で前のめりにまた近付いてくる。
逃さない目線。
「俺なんかした?」
壁際に当たりもう逃げられない。
「俺鈍いからさ。なんかしてたら教えて」
「お前に避けられたら悲しいよ」
真っ直ぐな彼は純粋な気持ちをそのまま直球で俺に投げつけて来て心が抉られて痛い。
「本当にお前が悪いとかじゃないから気にしなくていいよ」
押さえ付けてる想いのページをめくらないように必死で押さえつける。
「それにさ、別に俺たちヤロー同士だし嫌いだの何だのって別にどうでもよくね…っ!?」
言った瞬間に掴まれてる手を強く握られた。
何か言いたげに悲しそうに睨まれて必死で目を逸らした。
何なんだよ一体。
この気持ち悪い状況は何なんだよ。
無理矢理こっちに入り込もうとするな。
閉じた気持ちをはぎ取らないでくれ。
(閉ざされた日記)
休みの日が合ったので、同僚と2人ショッピングに出掛けたその先で。
一際騒がしい人の群れが進行方向に現れる。
その中央で激しく泣いている女の子の姿が見えた。
みんな彼女を取り囲み何とか宥めようとしてる感じ。
「迷子なのかなー?泣いちゃってるねー」
横に立つ彼女をちらりと見て言う。
見上げた同僚は何の返事もせずまっすぐ真剣な目でその女の子を見つめていた。
相いも変わらず収拾がつかない目の前の輪に。
突然ツカツカと近寄り出した同僚にびっくりして追い掛ける。
「ちょ…どこ行くの?」
彼女はその輪の中心に辿り着くと、
「泣けばいいと思ってるの!!」
凛とした声で言い放った。
その場の空気が凍りついたと思う。
冷たい空気が通り抜けた。
その場にいた人全員が驚いて動きが止まる。
静まり返った中に彼女に集まる視線。
彼女はいつも容赦ない。
それは子供であろうとも同じ事。
木枯らしみたいな人だと思う。
「あんたちょっとその物言いはひどくない?」
その場に居合わせた年配らしき女性が彼女に非難の声をあげる。
その人にサッと視線を寄越して
「こう言うの、優しくするだけじゃ埒があかないと思うんです。サッサッと用件聞いちゃえばいいんですよ」
そう言い放つとまた女の子に視線をやって
「あんたも泣いてばかりじゃいつまで経ってもママに会えないよ。名前は?ちゃんとあるんでしょ」
しゃがんで女の子と目線を合わせる。
間近で見つめられた女の子の涙はいつの間にか止まっていて怯えたようにもごもごと名前を言ったみたいだった。
「聞こえない。もっと大きく言わないと分からないよ」
ピシャリと言い放つ。
女の子は怯えながらもみんなにも聞こえるぐらいの大きさで名前を言った。
「やれば出来るじゃん」
そう言って彼女は笑って女の子の髪をクシャリと撫でた。
褒められた女の子もそれで緊張感が解けたのかその後に続く質問にも雄弁に答えていく。
「じゃあ、わたしについて来れる?迷子センター行くよ」
彼女はわたしに視線を向けると迷子センターの方を指さして先に歩き始めた。
その後ろを数歩遅れて付いていく女の子。
手を引くわけでもないし話し掛けて行くわけでもない。
だけど歩調は女の子が追い付けるぐらいの速度だ。
その後にわたしも置いていかれないように連なって歩いて行く。
やっぱり彼女は、木枯らしみたいな人だと思う。
でも彼女の木枯らしは優しい木枯らしなのだ。
(木枯らし)
ふらりと訪れたその茶屋で。
妖艶に演じるかの男のその仕草が。
とても美しく見えたのだ。
それから目に焼きついて離れない。
この世にもはや存在しない至高の女。
その姿に魅入られてしまったのだ。
華麗に宙を舞うその指先。
囚われて離さない。
妖しく微笑むそのくちびる。
舞いなど微塵も興味がなかったのに、
本当に美しいと思ったのだ。
(美しい)
更新が21時以降であったならもっとちゃんと文章に出来るのに…という負け惜しみ(笑)
更新ギリギリ30分前で考えるの辞めたい←
もう何も聞こえぬ。
舞台の上では。
わたしの役者人生は終わってしまったのだ。
わたしには演じることでしか生きていけぬと言うのに。
それすらも出来ないようになってしまった。
事の発端は1つのあらぬ記事。
それを信じた観客からの投げられたものが頭に当たり倒れた。
傷はそこまで大事に至らなかったが、なぜか舞台に上がると今までかぼちゃやジャガイモに見えていた観客にはっきりと目があり口がある。
そう認識すると何かみんなが野次を入れているように聞こえそれからそれから舞台の音が遠くなり歌えなくなった。
舞台上で舞えない歌えない役者など存在の意味がない。
生きる意味がないのだ。
それからは茫然自失に過ごす日々。
周りからは狂ったと思われたろう。
みんなに見放されても仕方がない。
なのにどんなにひどい振る舞いをしようとも振り払えないひとが居る。
わたしの歌に惚れたと会ったその日から毎日のように一緒に過ごすようになった友。
舞台上で演じるわたしの舞い歌う仮初の女がよいと言う。
毎日のように劇場に通って来ては夜遅くまで他愛もない事で共に過ごす。
そんな彼はおかしくなってしまったわたしの世話を普通なら絶対やらないだろう事まで甲斐甲斐しく世話を焼く。
自分の妻を差し置いて泊まり込みでわたしを見張っている。
「わたしは大丈夫だ。早く奥さんのところに帰ってやったらどうだ」
「あいつは1人でも大丈夫だ。お前はそんな心配もせず早く治ることに専念するんだ」
「わたしはもう演じることが出来ないよ。聞こえないんだ」
「今は会話出来てるだろう」
わたしの足を丁寧にタオルで拭き取ってくれながら優しく話しかけてくる。
「普通に日常なら大丈夫なんだ。でも舞台はダメだ。音が聞こえなくなるんだ」
「薬は飲んでいるのか?」
「そんなもの効きやしない」
「…他の商売でもしてみるか?俺が金は出してやる」
「ダメだよ」
「やってみたら思わぬ才能があるかもしれないぞ」
「わたしは芸をする事しか出来ないんだ」
何も出来ないんだよ旦那。
向けられる優しい目を見続けることがつらくて俯くしかない。
「それなら、気長にやっていくしかないか」
そっと頬に手を当てられたかと思うとそのまま目の前の彼と目線が合わされる。
「俺もおまえの演技好きだしなぁ」
いつもと変わらぬ安心できる笑顔で優しく言われて泣きたくなる。
「いつか俺の前で歌ってくれ。お前1人ぐらい余裕で養える」
頭をくしゃりと撫でられたその手が離れていく。
この世界はこんなに歪んで見えただろうか。
視界が定まらないよ。
🍁(この世界は)