懐炉 @_attakairo

Open App
11/17/2025, 12:25:49 PM

カレンダーをめくるよりも、ココアにマシュマロを浮かべたとき。
マフラーを巻くよりも、コートにスノーフレークが付いたとき。
トッピングに雪だるまが乗るよりも、スープで舌をやけどしたとき。
ウィンドウディスプレイが先取るよりも、プレゼントの中身に悩むとき。


寒くなったねと言い合うよりも、
互いの熱から離れがたいとき。

年の瀬の慌ただしさを思うよりも、
新しい夢が心にひとつ浮かんだとき。

【冬へ】

11/16/2025, 12:23:05 PM

 導線の細かな灯りが、垣根や花壇の縁取りに沿って引かれている。他にだれも出歩かない静かな庭園の夜だった。
「今夜は星も見えませんね」
 男がゆったりと首を反らして呟いた。「先程のお話ですが……」
 二人は近い距離にありながら、足取りは重く、ここに光さえ差し込めばウエディングロードをともに歩む姿と変わらなかった。男は迷いなく行先を見据え、女は携えた花に視線を落とす。
 空は暗雲立ち込めている。互いに数度、口を開きかけては閉じた。
「どうか、お気になさらないでください」
 白い石段を下りたところで男が言った。「きっとこれが最期になります」

 湖は黒く、なみなみとあった。漕ぎ出したボートに二人は乗っていた。向かい合う相手の輪郭もなぞれない。
 明かりが欲しいわ。
 女が呟いた。男は笑って、
 水面を覗いてご覧なさいと言った。

【君を照らす月】

11/15/2025, 3:59:19 PM

 薄く、雪が積もりはじめる季節だった。
 巷で出会った労働者に、とにかく立ち止まる時間を作れと助言を受けた。煉瓦を積むときも、運ぶときも、怒号が飛び交うなかでも、澄み切った時間が必要だ。
 考えないのではなく、感じるのだと。
「あんたの場合は立ち止まることがそれにあたるな」
 歩き続ける仕事なんだろ。
 仕事というものが生活を成り立たせ、生活が人生を成り立たせているのなら、たしかにその通りだと思った。
 歩き続けること。
 それが自分の仕事である。
 切り株をはたいて腰を落ち着ける。葉の重なりを見上げれば、音は層を増し、遠くの景色をも拾えるようになった。

 澄み切った、とはこのことだろうか? 感じるとは?

 もう何度目か、今日の仕事を振り返る。
 雪道は靴のかたちを憶えていたが、ところどころ、枯れ葉の積もった地面が見える。

【木漏れ日の跡】

11/13/2025, 2:14:51 PM

「きっと幸せになれるはずよ」
 大丈夫だからと頭を撫でられ、抱き締められた日々は終わり。瞬きで明日を見送るだけの人生へ。それも今や沈殿して、微かな対流には浮かばない。
「だって、みんなに愛される性格をしているもの」
              そうかもしれない。
  「楽しいことを見つけるのは得意でしょう?」
           そう、なのかもしれない。
      「昔から運が良かったじゃない」
       そうだったのかも、しれない……

       「幸せになれるわ。絶対に!」       





 魔法はとっくに消えたけど、呪いは解けずに付いてくる。きっと幸せになれるから、幸せになるために、しあわせにならないといけない。
 乾いた空気に泥沼が固まって、身動き取れなくなっても尚、もがき続けるひと。両の手のひらが合わさった瞬間、誰か微笑んだようで。

【祈りの果て】

11/12/2025, 11:51:00 AM



ころころ、ころがり、穴に落ちる。深くふかく降りてゆく。

たどり着かない底のほう、ぴかりと光る棘がある。

触れられないほど切っ先が育ち、
目を向けられないと痛みを放つ。
呼吸のように、鼓動のように、膨らんでは広がって、ぱちりと弾けて点になる。

こころひろがり恋おちる。ぽたりと滴り
染みとなる。
ただそこにいて見上げることだけ。

【心の迷路】

Next