ね、すっかり惚れ込んだ
選択肢があれば 決まって手を取り
空いた時間があれば 共に過ごしてもらう
そんな関係
あ、一方的に決めただけ
この こぢんまりとした世界くらい
自分軸で回したい
そう思って
もちろん許可なんて取ってない
だけど
束縛をしない
押しつけもしない
好意は そっと添えるだけ
うん、健全な愛といえるでしょう
相手の反応なんて気にしない
存在しないでしょう
この こぢんまりとした世界では
【お気に入り】
第一に
素直でいること
正直者でいなくとも 皮膚呼吸に頼ること
第二に
ひろがりを考えること
浅い波の底に立ち 倒れるように沈むこと
第三は
なんだっていい
第一を覆したとしても 第二を怠ったとしても
いちばん上にあるものが
いちばん下より優れているとは
限らないんだ
八の字書いて
始まりなく 終わりをつけず
すべては循環しているもの
誰かがなにかを創り出し 何かがだれかを創り出す
せかいはめぐるものだもの
第一に だれよりもあなたでいること
【誰よりも】
甘いの甘いの飛んでいけ
澄まし顔のあの子のもとへ
丁寧に貼ってくれた絆創膏
あの後しばらく剥がせなかったよ
感謝を込めて
苦いの苦いの飛んでいけ
ほかの子みんな可愛くみえる
どうして手作りしちゃったのかな
重すぎるとか嫌われたりして
渡しそびれた
チョコレートよ
飛んでいけ!
走ってももう追いつけない?
つくえ 靴箱 放課後 呼び出し
考えてたけどやっぱり怖くて
実行できない
痛みも
ついでに
飛んでいけ
日頃の行い 内気な性格
魔法がとければ通常授業
なんて惨めなバレンタインデー
泣きそうになって しゃがみ込んだら
向こうから
誰か走ってくる音
「また転んだ?」
絆創膏を取り出そうと
あの子がポケットに手を入れた
【バレンタイン】
いまみたいに
なにをいったらいいのか わからないときって
たくさんあって
ありふれたことは おとながみんな
いってたし
さりげないことは かえってきみを
くるしめそうだし
つぎのひとことで みらいがかわるかも
そうかんがえたら
なにもいえなくて
ただ ここにいる
きみの くうかんに
いつもとなりとは いかないけれど
めをあわせなくても
てをにぎらなくても
じかんやくうかん みえないものが
ふたりでいることをゆるすとしって
【伝えたい】
「……ひと足遅かったみたいだね?」
「だから予約しておけと言ったんだ」
見渡すかぎりの自由席はすべて埋まっていた。青空の下、木々や草花に囲まれて人々がしずかに眠っている。
「あぁでもほら、此処なんか見晴らしが良いよ。立ち見は嫌かい?」
「ひとりで勝手に突っ立っていろ、一生」
「一生って……」
わかりやすく傷ついた顔をして、若い男が腕を下ろした。気にも留めず男は離れてゆく。二人は同僚だった。
ただ一度、同じプロジェクトに参加しただけの。
「悪かったよ」
若い男がぽつりと。
「君を巻き込むつもりは無かったんだけどさ」
「…………」
謝られた男はそのとき背を向けており、視線の先には刻名があった。どこかで聞いたことのあるような、いちどは呼んだことがあるような、ありふれた名のひとつ。それがなぜか、いまは無性に懐かしく。
石のように固まる後ろ姿に、先ほど謝った男は気まずそうな顔をした。
「『―――』! ……本当に、ごめん」
男はそのときようやく顔をあげ、横を向いた。
「何か言ったか」
夢から醒めたような目をしている。
「君ねぇ……」
もういいよ、一人で勝手に行くから。拗ねた態度を隠さずに、男が離れてゆく。そのあとをもう一人の男が着いていった。
青空の下、見渡すかぎりの墓石が土に埋もれていた。それぞれが何度も足を運び、謝罪し、決意を供え、空席を探したことのある。
【この場所で】