失われた響き

君が指の病気になって ピアノを弾けなくなってから
10年が経った
でも僕の耳にはまだ 君の旋律が 焼き付いているんだ
君の沈黙さえ 僕には音として届く

霜降る朝

霜に白く縁取られた草の上を歩く
もう戻れない季節の匂いがして あの日を思い出す
胸の奥で軋むそれは 今も僕のことを呼んでいる

心の深呼吸

肺に 冬の冷たい空気を吸い入れた
ゆっくりと吐き出す
去年は君とクリスマスの計画を立てていた
僕の白い息だけが 冬空に溶けていった

時を繋ぐ糸

あの頃を思い出したくて
でも手繰り寄せれば プツンと切れてしまいそうで
触れられないまま 僕の時間は過ぎてゆくのに
君は懐かしんで 今日も話そうよって言ってくる

落ち葉の道

落ち葉の道を歩いていると
土の匂いがする
カサカサ音を立てる
ああ 君が隣を歩いていた時も 同じだったなあ