今日にさよなら
悲劇のヒロインなんか嫌いだ、
悲しみにくれてなんの生産性もなく、他者にすがる
自分の悪いところなんて1ミリもないみたいな顔して
ただ不幸を嘆くばかりで
足掻く力もない、自力で生きる力もない
そんな自分が大嫌いだ
夜が来る、明日が来る
大嫌いな自分と向き合う日がいつか来る
悲劇のヒロインぶった仮面を破りたいと願うなら
今日にさよなら
kiss
『真実の愛の口付けで、姫は目覚める』
冒険の途中にある茨の城を踏破していた勇者は困惑していた。
寝台の横に書かれた紙をしげしげと眺める。
「初対面の女性の寝込みを襲うのは、どうかと思うし…知らない人を愛せというのも無理難題だよなぁ」
愛らしい顔で寝ている姫の姿は可哀想だとは思うが、あまりダンジョン制覇とは関係ない。
「よし、ミッションにこの呪いをかけた魔法使いを倒すことを追加しよう!」
呪いを解く手っ取り早い方法を判断してからの、勇者の行動はすさまじかった。
魔女を倒した勇者は目覚めた姫からしつこくキスをねだられたが、のちに村の幼馴染との結婚式で真実の愛を捧げるキスを交わした。
海の底
夢想する。
一緒に海に沈もうと、甘いささやきをくれた君と。
何も考えず、何も思わず、何も感じないまま。
青い、青い、海の底にただよう夢。
閉ざされた日記
字が下手な自分が嫌で、必要以上に字を書きたくなかった。
中学でブームだった手紙も、もらっては口で返事をしている有り様で。
そんな自分を変えるために日記帳を買ってはみたものの、手は伸びなかった。
わかっていた。
自分の文字が嫌いな理由が、字が下手なだけではないことを。
自分自身が全力で嫌いなのだ。
だから存在を、意思をこの世界に残したくなくて。
でもいつかは、と閉ざされた日記を毎日眺めている。
木枯らし
耳の聞こえない私に、彼女はピアノを弾いてくれる。
彼女のすぐ傍に座ると、響く音がわずかに振動として心を揺らしてくる。
真剣な横顔と、激しい指遣い。
今日の楽譜はショパンの『木枯らし』
くるくると目まぐるしい動きの右手がまるで風にもてあそばれる枯葉のようで。
それを選曲した彼女を、私は見つめることしかできなかった。
木枯らしのように吹き荒ぶ彼女の心を。