約束
「げんまーん、げんまーん、指切りげんまん」
「まって、なんのオマジナイ?にほんご⁇」
転校生のサーシャが私と小指をつないだまま、青い目を大きく見開いた。デカいお目めがこぼれ落ちそう。
「日本語だよ!えーっと?」
いま勉強で使ってたタブレットを操作して意味を調べる。
「わっ。思ったより怖い、歌だった……」
「なんですか、かしてー!」
2人でのぞく、拳骨万回と針千本飲ますの本当の意味。
「日本人、約束にきびしいの解る。破ったら死ぬ覚悟」
「や、これは昔の人が怖いだけ!」
サーシャが首をきる仕草をしたのであわてた。
日本が誤解されてるし、まだ10才で死ぬのは可哀想だ。
「サーシャは守る。貴女は守りますか?」
小指を差し出すその目は本気だったから、私もうなずく。
もう一度、歌詞を2人で見ながら小指をからめる。
「宿題はサーシャだけとやる」
「お菓子は2人で分ける」
2人だけのないしょの約束。
「げんまんだよ」
「針千本、覚えましたよー」
ケラケラ笑って歌う、約束の歌。
指きった!!
記録
震えた字、かすれた字、丁寧に書かれた字、走り書き。
感情を込めたメモの記録たちを読む日課。
俺は記憶が1日しか持たない。
膨大なメモの最初はその事実から始まり、その日やるべきことを書かれたメモで終わる。
感動したことを書く日記もある、俺にとって記録とは生きている証だ。
だが、こうも思う。
忘れてしまうことと、忘れられてしまうこと、
どちらが辛いのだろうかと。
メモによれば、あと少しで「彼女」が来るらしい。
どんな人なのか、不安と期待の入り混じる気持ちで俺は茶菓子を用意しながら訪れを待つことにした。
さぁ冒険だ
引越したばかりの新しい街、誰も私を知らない街。
桜並木を散歩して、当てのない道をゆく。
マップを埋めるように。
魔法
古代よりメイクは魔除けだった。
爪を塗り、アイシャドウを選び、仕上げに赤いリップ。
高いピンヒールを装備し、強い女の出来上がり。
男に媚びないイメージの私に変身だ。
君とみた虹
たまたま君の家族と一緒に来た海で、夕暮れ時に貝を拾った。
乳白色で、口を閉じた手のひらサイズの大きな貝。
君がその貝を何気なく開いた瞬間。
小さい虹がゆらめいていた。
幻だろうかと2人で凝視しても消えず、神秘的なそれは数秒で淡雪のように消えた。
奇跡のようなそれは、本当にあったことだったのだろうか。
2人同時に見た夢なのではないか。
いま大人になった僕たちはそんなことを語りながら、確かめる為にふたたび夕暮れの海岸を歩いている。