【お金より大事なもの】
宝くじを当てたのは一ヶ月前
一億円を手にした俺と妻、五歳の息子は大喜びだった
美味しいものも食べられるし
欲しかった車も買えるだろう
海外旅行にも行きたい
他にもいろいろ……夢は膨らむばかりだ
この世にお金より大事なものなんてない
お金があれば大抵のことはできるのだから
けれどある日
会社で仕事をしていると
知らない番号から電話がかかってきた
「息子を誘拐した。助けたければ一億円用意しろ」
低い男の声でそう告げられ、パニックになる
「すぐに一億円を渡しますから、必ず息子を返してください!」
犯人の指示通りに受け渡し場所に向かい
一億円を渡して息子を解放してもらった
息子が無事なことに安堵して
泣きながら強く抱きしめる
犯人を許すことは出来ないけれど
息子が助かるなら一億円なんて惜しくない
お金より大事なものは確かに存在した
一億円よりずっと大切なものが
この腕の中にある
【月夜】
雲が少なく月がよく見える夜
私は元の姿に戻り、仲間に会いに行く
狼に戻れるのはこんな夜だけだ
そして仲間と再会できるのも
森の奥の開けた場所へ行くと
すでに三頭の狼が待っていた
嬉しさに尻尾を振っていると
遅れて一頭がやって来た
月明かりの下
同窓会にも似た久々の集会が始まる
みんなで遠吠えをして再会を喜び
唸りながら人間社会の愚痴をこぼす
そして夜が明ける頃
私たちは人間の姿に戻るのだ
すると毎回、自然と解散することになる
今度は人間の言葉で
また会おう、とか
お互い人間界で上手くやろう、とか
別れの挨拶や励ましの言葉を交わし合い
それぞれの家に帰るのだ
人間の世界は面倒くさくて
理解できないことも多いけれど
みんなを見習ってまた頑張らねば
次の月夜の晩が楽しみだ
【絆】
些細なことで大喧嘩して
幼い頃からの友情は壊れた
それでもやっぱりアイツが気になって
けれど連絡する勇気もなかった
ある日僕は街で知らない男たちに絡まれ
金を要求された
断ると男たちは逆上した
喧嘩が弱い僕は一発二発と殴られ
もうダメだ、と思った時
アイツが現れた
男の一人を一発殴り返したあと
僕を連れて走った
落ち着いてから
どうして助けに入ったんだ、と聞くと
当たり前だろ、と答える
街に来たらたまたま
僕のことを見かけただけなんだろうけど
見て見ぬふりだって出来たはずなのに
あの時はごめんと謝ると
俺もごめんと言って笑う
やっぱり僕らは見えない糸で繋がっていて
きっとこれからも一緒に笑ったり
助け合ったりしていけるだろう
これが絆というものなんだ、と気付いて
僕はアイツに微笑みかけた
【たまには】
お気に入りのお店に行くと
いつもオムライスを頼んじゃうけど
たまにはナポリタンにしようかな
飲み物もいつもはココアを頼むけど
たまにはカフェオレにしてみようかな
デザートはいつもバニラアイスを頼んでるけど
たまにはキャラメルアイスにしちゃおうかな
ほら
これでいつもとは違うお昼の出来上がり
たまにはこんな風に
「いつも通り」を変えてみるのもいいな
でも美味しかったけど
いつものメニューも恋しくなるんだよね
だからあくまで
「たまに」にしよう
当たり前のようで当たり前じゃない
些細な幸せが積み重なって
この日常は作られてる
いつも何気なく頼んでいるメニューも
食べられるのは当たり前じゃない
たまには「当たり前」をあえて崩してみると
今の幸せに気が付けるのかも知れないな
【大好きな君に】
ねえ
こんなに大好きだと伝えているのに
可愛いね
で終わらせないでよ
お腹が空いたの?
じゃないよ
あなたが大好きだって言ってるの
僕も大好きって答えてよ
いつも通りのあなたの笑顔の前で
私のにゃあという声が虚しく響いた