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(+誰よりも+10年後の私から届いた手紙)
2026年2月18日水曜日
卵が割れてしまった。
私が落とした衝撃でその身を壊されながら、黄身を抱えたままでいる白い殻。それは、誰よりも子を守りたいと欲しているのに、その甲斐性を持たない母親を彷彿とさせる。実際そんな場面に出会うこともないと思うけれど、妙な生々しさがあるせいで、順を追って罪悪感が募ってくる。
場所をとっておきたいので、未完で失礼します。明日中には形になるよう努力します。
少しのこれまでと、長くなるこれから、わたしに向かって「もっと読みたい」と伝えてくださる方々に、心から感謝を申しあげます——19:12
2月20日になりました。19 日中には進捗がなくて、他でもない自分の期待を裏切ったような心持ちでいます。しかし体調を崩してしまったので、仕方がない。今週中にお話をまとめられたなら、自分を偉いと思うことにしました。
バレンタイン
2月15日日曜日
恨めしい物事は、たくさんある。酢酸で赤く染められたリトマス試験紙の数と比べても、劣らないくらいには、たくさん。
例えば、思い出を覆い隠すように はびこった雑草。例えば、黄ばんだ本ばかりの古本屋。例えば、止まない痛みに、効かない薬。あとはそう、目が合ったなり不躾に「チョコは?」と聞く君の身勝手さ。そういう事象に直面すると、生きる心地が悪くなる。
それでも世界を憎めないのは、ドクダミをかいくぐって咲いたあのシロツメクサが、あまりに綺麗だったから。たった二百円の本を、たった三冊買った時、あの店主は、満面の笑みをしていたから。苦しそうな不調の友に、カイロを手渡すことは出来たから。むしろ世間が好きと思えたのは、リトマス試験紙を石灰水に浸しながら「顔色悪いよね、大丈夫か」と言う、君の存在があったから。
今日のためにチョコレートを作ることは叶わなかったけれど。リトマス試験紙は、液体に浸すものじゃないけれど。
心から、ハッピーバレンタイン。
待ってて
2月13日金曜日+
確証は無いけれど、無いなりに、声を掛けられたような気がした。それだから振り返ったのに、あるのは街灯、そればかり。綺麗な頭身に伸びてくれたこの影に、たまらず会釈したのは、自分だけ。立ち止まって、夜道を見回したって、人影は見留められない。
「なあ、随分みっともないな。」
降りかかった哀しさを取り払おうと、ありったけの感情を貼り付けた声を、吐き出す。近所迷惑であるから、声は張らない。他でもない己で出来た影に、独り言を浴びせる私である。その恩着せがましい倫理だけが、今の自分を好きでいられる理由に感じられた。
しかしどこにも響かない自虐は、虚しさを助長した。足を速めに動かして、不毛な感情を追いやろうと、試みる。それを馬鹿みたいだと影に呟いたら、視界が滲んでくるのが分かる。これはいけないから、腕を振りだし、柔らかく走り始めた。
どこぞのお宅の玄関先に、植木鉢が並んでいるのが目に入って、走るのをやめる。その斜向かいでパッと照明がつく。影の輪郭が余計に濃くなる。逃げたくなった。影を強く踏みにじって、全力をもって走り出す。足音が住宅街に響いて、煩い。
街灯の列は続くから、どんなに必死で走っても、伸びる影、縮む影、交代しながら、まだ追ってくる。力ずくでは敵わないと、そう分かったから、影を相手に交渉を始めた。
「一人になりたいから、ここで待っててくれないか。迎えに、来るから!」
一つ単語を発するたびに、段々息が切れて、声が震えるから、すぐ胸中で念ずるのに切り換えた。今この場に染み付いて、留まって、今日は帰ってこないで。心の内で、何度も、頼み込む。だが、聞き入れては貰えなかった。
いよいよ動悸が激しくなって、つまずくように立ち止まる。膝を曲げて、深く深く息を吐いた。冷えた大気を吸って喉を痛めるうちに、次第に潤んだ視界が、ついには壊れて、ふと、目が合う。
他の何でもない。自分自身の影と、目がかち合った。待っててって、確かに言ったのに。孤独の中では、泣かせてくれない。よく見れば醜い形だなと、喉の奥から笑いが剥げ落ちた。
伝えたい
2026年2月13日金曜日
もし今程なく、自分の命を絶たねばならぬとした時の、心残りを考えた。年の若さを肝要とは思わないから、やり損ねたことばかりが思い連なる。
買い置いてからまだ新品の消しゴムたち、3年前に貰っておいて未だに埋まらない日記帳。利用しきれていない物は、やはり勿体なく思われる。
伝えていない思いというのも、たくさんある。家族親類や大好きな友達へ、多量の感謝が並ぶ中、引っ掛かるのは、出来ていない謝罪だ。
あの男に、背を蹴ったことを謝らなければならない。名前で呼ばれるのが屈辱だからよせと、あれは出任せだったと伝えなければならない。何言うことなく部活を抜けて、廊下ですれ違っても目を合わせなかったこと、詫びねばならない。
話し掛けるには時機が掴めないからと、手紙を書こうとしたことがあった。十行書いたところでそれを失くした。だから何か、書き直して、奴の肩を叩けばそれで良い。それを知って尚筆を取らないのは、私に勇が無いからだ。伝えてせめて、自分の否を認めるくらいはしたいというのは、本音なのに。
明日死ぬとなれば、まともに贖罪が出来るのだろうか。