"スマイル"
笑顔は技術だと、先生は言った。
訓練の賜物、磨き抜かれた努力の結晶なのだと。
ちょいと失礼、と先生は僕の顔に手を伸ばし、
頬をぐにぐにと捏ねくり回す。
指で口の端をぐいーと持ち上げたり、
目尻を下げたり、顎の位置を調整したり。
最後に、これが君の笑顔だ、と鏡を見せられた。
"君に極意を教えてあげよう。
重要なのは、形とタイミングだ。
共感なんて出来なくていいし、理解なんてしなくていい。
だから、全部覚えて?
いま作った笑顔の形と、どういう状況でそれを使えば効果的なのか。
もう少し広げて、どんな反応をしたら他人はどんなことを思って、どういう風に対応するのか。
それが出来れば、君は"皆"みたいに"普通"になれるよ"
"ぼくも笑うの苦手だったからねー。
苦労したよ、ホント"
ほんわかと笑いながら先生は言う。
それはとても自然な笑顔で。
綺麗に笑える人は本当に凄いと、そう思った。
"どこにも書けないこと"
積もり積もった言葉達が自分をゴミ箱に変えてしまう前に、やるべきことがあるんじゃないかなぁ。
もしくは、その逆で。
一度表に出さないと決めたのなら、全て抱えて墓場まで持っていくべきだと思う。
"時計の針"
大きな時計台の2本の針がゆっくりと噛み合わさって、圧し切るように"カチリ"と音を立てる。
まるで、鋏みたいだなぁと思っていた。
時計の針を凶器として用いた物語は結構バリエーションがある。
針そのもので刺したり、ロープを引っ掛けて時間経過で締めたり、二枚刃で断ち切ったり。
ルパン三世のカリオストロ伯爵は二本針に押し潰されたんだっけ。
『彼の地を長年に渡って支え続けてきた一族の長の力を以てしても時が進むには抗えず、その圧(物理)を前に成す術が無かった』と書くと、何となく聞こえが良くなる不思議。
"Kiss"
貴女は何かを我慢する時に手のひらに爪を立てる癖があった。
拳が白くなる程に固く強く握り込まれた手を解くと、くっきりと残る爪痕が四つ。
小さい頃から何度も何度もつけられた傷は柔らかい皮膚をいつしか硬く変えてしまったようで、指先でそっとなぞると感触の違いがはっきりと分かった。
一際深く、生命線をぶった切るような位置にある半月型の痕に口付ける。
こんな手、綺麗じゃないでしょう?と貴女は諦めたように笑ったけど。
それは貴女がずっと頑張ってきた証だと、そう思う。
"勿忘草(わすれなぐさ)"
勿忘草属の属名Myosotisは"ハツカネズミの耳"という意味で、短い毛の密生した葉がねずみの耳を連想させることに由来するそうな。
学名って意外と見た目そのままだったり、面白い表現をしているものが多いよね。