人は酷いことが起こると視界がモノクロになるらしい。そんな馬鹿なと冗談だろうと思った事だろう、しかしそれはどうやら本当だった。
街中を歩いていると景色が色を無くしたのだ。
人も建物も電車も全て。
私は焦った。
これはいつ治るものなのか
どうして発症したのか
病院はどこに行けば診てもらえるだろう?
でもふとこのまま目が見えなくなってしまったら
嫌なもの酷いこと何も目にしなくて済むのか?と悪い考えが嫌な方へとシフトしていく。
いやいやそれは困るのだ。
だって私の好きなものが見れない、家族とコミュニケーションが取れない、視覚を失うとはきっとそういうことなのだろう。
ふいにピコンと音が鳴る。
それはメッセージアプリの音で開けば恋人からだった。
大丈夫かと。
はて、何かあっただろうか。
そんな心配される事。
大丈夫、そう打とうとした時画面にポツリと雫が落ちる。雨が降ってきたのかと空を見れば晴れているのでおや?と首を傾げると周りから視線。
そして目に違和感。
あぁ、なるほど。この雫は私の目から落ちたものでコレは涙なのか。
続いて音が鳴り画面に視線を落とす。
失ったばかりだから心配で、そんな文面を声にならない言葉で復唱し記憶が蘇る。
そう…そうだった
もう居ないのか…だからこんなにも世界はモノクロで私の心は虚しさでいっぱいなのか。
泣いていいんだよ
その一言に私の世界は色が戻る。
起こってしまったことは戻らない。
モノクロだったのは私の心が忘れたかった事を隠してしまったからだった。
人は臆病で弱くてとても繊細だ。
それでも生きていかなきゃならなくて
立ち上がらなきゃいけない。
モノクロはきっと貴方の心にも発症する可能性があります。ですがそれは貴方を支えてくれる人が治してくれるかもしれません。
その事を心に記録しておいてください。
お題【モノクロ】
あの日もこんな雷が鳴る雨が凄い日だった。
仕事が終わり家に帰る。
ただいま~と家族が居ないのに声をかけて部屋にいるだろう愛犬のところにいく。
「…え」
そこには元気よく鳴いて出迎える愛犬の姿はなく変わり果てた姿で私は茫然とした。なんで、どうして。
あぁ、そうだ今日はこの子の嫌いな雷が鳴っていた。
「電話…お母さん…お兄ちゃん…」
震える手で携帯を手にして電話をかける。
母は祖父が癌で入院をしていたから今日はその見舞いで私は仕事があるからと昨日おばあちゃんの家から帰ってきて、朝普通に行ってきますと愛犬に声をかけたばかりの事だったのだ。
コール音が途切れはいと声がかかる。
「おかあ、さ」
「…どうしたの?」
「いま…家、帰ってきて…小屋で…死んで…」
「えっ…」
「今日雷だったから抜け出そうとしたのかもっ…どうしようっ体冷たいっ」
小屋の柵の間に首が挟まってる愛犬に私はパニックだった。病院?いやもう間に合わない、だっていつからこうなってたの?死後硬直してるのに。
「ちょっと待って今病院だから…またかけ直すから待っててね!」
「…うん…」
虚しくツーツーと音が響く。
とにかくこのままじゃ駄目だ、グッと涙を圧し殺しなんとか愛犬を救出する。すると再びコール音。
はい、と出ると大丈夫かと兄の声。
私は涙が出た、兄の前では泣いたことがあまりない。兄と妹、性別が違うからか大きくなるにつれ話さなくなっていった事も原因だろう。
「今どんな感じだ」
「首吊ってて…救出して…」
「…おう」
「…隣に病院あったけど…もうムリかな」
「毛布くるんで一応いっとけ」
「わかった…」
兄も動揺をしてる、この子は兄にも懐いていた。この子が小さい時から一緒だったから。
「…ねぇお兄ちゃん…人生に永遠なんて、ないけれど…まだ生きてて欲しかった…」
兄からの言葉はない。
それはそうだろう、あまりにも突然すぎる。
それにきっと兄も泣いている。
「行ってくる…」
「おう…気を付けてな」
私は電話を切ると鍵をするのも忘れ隣の動物病院にと急いだ。そして結果は案の定。
突然の別れに息が苦しい、途中様子を見にこの子の兄弟を引き取った家族も来てくれ母も急いで帰ってきてくれたが1人で見た光景は衝撃すぎて頭に会話が入ってこない。
病院の先生が入れてくれた段ボールに入る君を見て
ごめんねと呟く私を家族が泣きながら抱きしめて見ていたのをよく覚えている。
そしてあの日から私は雷が怖くなり犬を飼わなくなった。
お題 【永遠なんて、ないけれど】
もし君と出会わない世界は
いったいどんな景色だっただろう
そんな事をふと考えたことあるし
気になったことある
でも私はいまの世界で会う君と
一緒に歩めてとても幸せ
だからパラレルワールドには行かなくてもいいや
君との未来がこのままずっと
共にありますようにと
それが私の願い事
お題 パラレルワールド
「余命数刻ですね」
お医者様の言葉に頭をガツンと殴られたような衝撃が走る。隣を見れば余命宣告された相方が俯いている。
嘘だと信じたいけれど、容赦なく診察は進んでいって元いた病室に戻ってくる。
二人の間には気まずい空気、口を開くのが躊躇われるように思えた。
ふとあなたは此方を見ると眉を下げて笑った。
「最期の最後まで一緒にいてほしい」
震える手を伸ばされその手を両手で掴み頷くとあなたはホッとしたようだった。
どこにも行かないで、なんて言えるわけもなくて。
あぁ、この世界は
なんて残酷なんだろう。
お題∶どこにも行かないで
明けましておめでとうございます。
そんな言葉を言えるのは数日だけ。
貴方の挨拶が今日も聞こえて嬉しいよ。
こちらこそよろしくお願いします。