Open App
10/30/2025, 1:13:45 PM

【そして、】

海沿いの小さな駐車場。
潮の匂いが漂い、波の音が車体をくすぐる。
2人は古びた車の後ろに腰を下ろし、カップ麺の湯気をぼんやり眺めていた。

「結局、目的地ってどこやったっけ。」

「しらん。気が向いたほうに行けばええやろ。」

そんな無計画さは、昔から何ひとつとして変わっていない。

昼間は道に迷い、ガソリンスタンドで笑われ、知らない町でソフトクリームを食べた。
くだらない出来事の連続なのに、なぜか胸の奥が軽い。

夕日が沈み、波がゆっくりと赤く染まる。

「なあ、次はもっと遠いとこ行こうや。」

「ならお前が運転しろよ。」

「いややわ。お前の車やろ。」

「うるさいわ、助手席のくせに偉そうに言うな。」

笑い声が風に乗って広がっていく。
夜の気配が近づいても、話は途切れない。
どこへ向かうのかもわからないまま、それで十分だと思えた。

空の端に、一番星が瞬く。
ふたりの旅は、まだ始まったばかりだった。

10/29/2025, 1:51:22 PM

【tiny love】

駅前の小さなカフェ。
その片隅のテーブルで、2人は今日もくだらないことで笑い合っていた。
ひとりはコーヒーのミルクをこぼし、もうひとりはそれを見て肩を震わせている。
周りの視線なんて気にしない。
ここではそれが日常だった。

「はい、ティッシュ。」

そう言って差し出された紙ナプキンを、わざとふくれっ面で受け取る。
そうやって軽口を叩きながらも、お互いのことはちゃんと見ている。
特別落ち込んだ日でも、ここに来ればいつの間にか笑ってしまうのだ。

大きな夢の話をしたり、好きな映画を熱く語ったり、時には「明日は何食べよう?」なんて小さな相談もする。
そんなちっぽけな時間の積み重ねが、いつの間にか特別な宝物になっていた。

「俺らって、なんかええよな」

気恥ずかしさを隠すように、片方がコーヒーを一口すする。
もう片方は鼻で笑いながらも、どこか嬉しそうにカップを合わせた。

ちょっとしたいたずらも、小さな応援も、全部ひっくるめて彼らのささやかな愛。
派手じゃないし、大声で語るほどのものじゃない。けれど、心の奥でずっと温かく灯り続けるのだ。

今日もまた、笑い声がカフェに跳ねる。明日もきっと、それは変わらない。

10/28/2025, 1:34:55 PM

【おもてなし】

夜の街を包む柔らかな灯りを頼りに、小さな店の扉を押した。
木の鈴がころんと鳴り、温かな空気が出迎える。
カウンターには磨き込まれた木目が淡く光り、奥ではスパイスの香りが静かに漂っていた。

席に腰を下ろすと、マスターが軽く会釈をしながら、湯気の立つ一杯を差し出してくれた。
言葉は少ないけれど、その仕草に心の奥がほぐれていく気がした。
初めてだが、どこか懐かしく安心した。

調理場で手を動かしながら、ふとマスターがこちらに視線を寄こす。

「外は寒かったでしょう。これ、うちのおすすめです。よかったら。」

その声は落ち着いていて、不思議と安心を溶かし込んでくる。

湯気の向こうに見える横顔は、少し不器用そうなのに、丁寧さが滲んでいた。
気付けばいつの間にか、こちらも話しかけていた。
どこに住んでるのか、どんな仕事をしているのか、ぽつりぽつりと会話が続いていく。

グラスが触れ合う音が響いた瞬間、ふと思った。
この人とは仲良くなれそうな気がする。
まだ始まったばかりの時間なのに、未来の楽しさが小さく膨らんでいく。

いつか常連になって笑い合っているかもしれない。
そんな予感を抱えながら、温かな一杯をもう一度口へ運んだ。

10/27/2025, 11:38:21 AM

【消えない焔】

山奥のキャンプ場。
2人はテントの前で炭火を囲みながら、バカみたいに騒いでいた。

肉を焦がしては笑い、焚き火に枝を放りこんでは勝手に盛り上がる。

「ガキの頃から変わらんな、俺ら。」

「成長がないとも言う。」

くだらない会話で腹が千切れるほど笑う。

会社では真面目な顔して働いているのに、こういう時だけは年齢を置き去りにできる。

火がパチパチと弾け、星空が広がる。
夢が叶ったとか叶わないとか、そんな話はどうでもよかった。
ただ隣にいるこいつと一緒に笑っていれば。
それだけで、何でもできるような気がした。

「来年も来ようや。」

当然やろ、という声が返る。

焔は小さくても、決して消えない。
今日の笑い声を燃やしながら、明日を照らしている。

10/26/2025, 9:43:45 PM

【終わらない問い】

海沿いの道を歩く。
夜の潮風がジャケットの裾をふわりと揺らし、遠くで船の汽笛が響いた。

仕事帰り、ふたりは缶ビールを片手に防波堤へ腰を下ろす。
街の光が波に砕けて、ゆらゆらと揺れていた。

「なあ、人生って結局なんやろうな。」

突然の重たい問いも、相手は笑って受け流す。

「知らんわ。けどまあ、こうして飲めるんやったら十分やろ。」

「それはそう。」

いつの間にか笑い声が2つ重なっていた。

空には星。潮のにおい。
遠くを走る車のエンジン音。
大切な答えなんか出なくても、この瞬間がしっかり心に残る気がした。

「明日も変わらん一日やとしてもさ、悪くはないやんな。」

「最高とは言えへんけどな。まあ、楽しくやっていこうぜ。」

2人は缶を軽くぶつけて、一口飲んだ。

終わらない問いが夜空に溶ける。
波が打ち返しても、笑い声はずっと止まらなかった。

Next