君が見た夢
今朝の彼女の話は愉快だった。
なんでも、自分のスリーサイズが劇的に変わった夢を見たらしい。
胸は大きく、腹は引き締まり、お尻は綺麗なラインを描いていた、と。ちょっと興奮気味に話していたが、僕は今の体型のままで十分魅力的だったので、「そんな完璧より、君の体型のほうが安心するよ」と伝えた。
すると、彼女は今までの嬉しそうな顔から険しい表情へと一変し、腕を思い切り後ろへ振り切っていた。
なんだ、どうしたんだ。手をパーにして後ろから前へ勢いをつけてこちらに振りかぶってくる。そんな、まるでビンタされるみたいじゃないか。
数秒後に襲いかかる痛みを想像しながら、僕はこれが悪い夢でありますようにということをひたすらに願った。
届かないのに
ー今日楽しみだね!水族館なんて久しぶりか
も!先に〇〇駅着いたから待ってるね〜
ーわかった!僕ももうすぐ着くよ。
これが、最後のやり取りだった。
電車内で突如発生した殺傷事件。
それに彼は巻き込まれ、不運にも犯人の振り回していたナイフが胸に刺さりこの世を去った。
あまりにも突然のことで、その日のことはよく覚えていない。
後で知ったことだが、後日回収された彼のバッグからは婚約指輪が見つかったそうだ。
もう、彼の想いを受け取ることも、彼への想いを伝えることもできない。それでも未だに、返事の来ない宛先にメッセージを送ってしまう。
もしかしたらという、淡い期待を持って。
何でもないフリ
何でもないフリができるほど器用じゃない。
だけどここは、踏ん張りどころではないのか?
もうすぐ頂点に上りそうなゴンドラに尿意を覚えながら、俺は愛の言葉を囁いた。
奇跡をもう一度
今日、植物状態だった彼の意識が回復した。
ほんとに細い、小さな声で「いつもありがとう。」って。
嘘みたいだ。4年間の植物状態。正直、もう話せる日は来ないと思っていた。医師からも、いつ亡くなってもおかしくないと言われていた。
それがどうだ。目の前の彼はたしかに生きていて、意識も回復した。
感極まって言葉が出ない。どうしよう、こんな。こんな奇跡が起きたなら。
期待してしまう。また、前の生活みたいに彼と笑って過ごせる日が来ると。
___________あぁ、どうか神様。
"奇跡をもう一度。"