どこにも書けないこと
わたあめってどんなに大きくても、力込めてギュッギュッて丸めれば小石くらいに小さくなるよね?
あの子に、それをやりたい。そして食べたい。
それか、小さな箱に入れて持ち運びたい。
時計の針
揺れる車内の窓から、夕陽がこぼれる。オレンジ色の光は、隣に座る彼女のまつ毛を照らした。
各駅停車を告げるアナウンスが聞こえ、自分の降りるべき駅に近づいていることがわかる。
彼女の笑い声とか、匂いとか、仕草とか。
ぜんぶ、もっと聞きたくて。感じていたくて。まだ足りなくて。永遠に、駅に着かなければいいのにと思ってしまう。
このまま、時計の針が止まってしまえばいいのに。
ただ景色を見つめる彼女の瞳が綺麗すぎて、そう願わずにはいられなかった。
Kiss
それをしたところで、あなたはきっと何も感じないでしょ。
匂いも声も顔も性格も髪型も
思いきり笑うと見える八重歯も
自分が性格悪いこと自覚して自己嫌悪になってるところも
情けない声も
本気出してるところも
距離近いところも
くだらないことをすぐ思いつくところも
気遣いが上手いところも
歌をうたってるところも
なんかもう何もかも
すき
君の匂いも、声も、姿も、カタチも。どこかもう薄れていて曖昧になっていた。
15年ぶりに戻ってきたこの街は、何もかも変わっていて、どこか見知らぬテーマパークにでも迷い込んだのかと錯覚しそうになる。
『ねえ、歩くの速い』
いつしか彼女がそう文句を言った。
僕はきちんと歩幅を合わせていたつもりだったのに。
『ごめん』
更にゆっくりと歩く僕は、自分がカタツムリになった想像をしていた。いつも怒られるたびに、何か考えてしまうのが癖だった。
15年。長いような短いような月日。
きっとたぶん、君にとっては早く、短いものなのだろう。
この街は何もかも変わっている。店も、音も、雰囲気も。
並んで座ったベンチは、塗装が剥がれ、昔の名残りを残したまま廃れている。
僕はそこに腰掛けてみた。
15年前のように。ただ、ゆっくりと座って、街並みを眺める。
『あれ、君同じ高校でしょ?』
話しかけたのは君からだったよね。その日は風が強くて、目も開けられないほどだった。でもなぜか、君の声ははっきりと聞こえたっけ。
でも今は、風の声しか聞こえない。
「君…………」
風に混じる、高い声。
耳を疑う。
そんなはずないのに。
いるわけないのに。
でも。
もしかしたら。
「…………早かったね」
次は、言われなくても歩幅を合わせるよ。