銀のネックレスのような凍てつく星空が首筋を冷やす。部屋で一向に進まない時計の秒針を眺める。今日はまだ始まってすらいないが考えるのも億劫で精神は凍てついていた。おせちと一緒に冷凍保存してほしい
題『凍てつく星空』
君と紡ぐ物語は、まるで"小説の書き方"を見ながら書いたような、異世界転生くらい食傷気味な物語。
本棚に並ぶのは小説家の書く小説のような本ばかり。
中身は違うけど骨子は一緒。物語は平和を求めない。何事もなく幸せな人生を送りました、なんて登場人物はモブ以下だ。
それなのにこの世界は、運の良さを努力と勘違いして訊ねる。
「今まで何してきたの?」
数年単位で何も出来ないような病気や怪我、精神的な病を"運よく避けれる環境にいた"ことに無自覚な発言。ガチャガチャでハズレを引かなかっただけ。
社内のフィギュアケースにはドッペルゲンガーみたいに同一人物がズラリと並んでいて、"貴方じゃなくても代わりはいくらでもいる"と、動かない瞳が一斉に呟く。
テレビや映画ではドラマチックな人物を称賛するくせに、その過程にあるかもしれない人はチェスの駒みたいに盤上から落とす。
物語は紡げる距離まで寄り添わなければ成立しない。
題『君と紡ぐ物語』
失われた響きはピコーンという電子音。中学時代の思い出のゲーム筐体は、バッテリーを直せば使える程度の劣化ではなかった。パールホワイトだった本体は黄ばんでおり、開こうとすると表面がベタつく。なんとか開くが中身も黄ばんでおり画面にはアメーバのような模様が電源を入れていないのに浮かんでいた。これはもうダメだ。悲しいけれど思い出にも寿命があるんだね。今までありがとう。
題『失われた響き』
霜降る朝、レインコートに繋げた熊よけの鈴が鳴り響く。
"クマさんはどこにいるの?ボクはここだよ"
藪の中や空き家の方をキョロキョロ見渡す。伐採された柿の木が横たわっていた。
"勿体無いなー。どうせなら熊さんに柿をお腹いっぱい食べてもらえばいいのに"
昨日はなかった電気柵が設置されていた。
"絵本の熊さんはいつもニコニコしててふわふわの毛皮で抱きしめてくれるのに。どうして仲良くできないの?"
熊さんに会えないかなと淡い好奇心で探索する。
題『霜降る朝』
夜の7時か8時。ヒーターで温めておいた自室の電気毛布の温もりに包まれて、間接照明の灯りを頼りに水筒から冷たいリプトンティーを蓋コップに注ぐ。横になったまま飲む。乾いた口内を湿らせ、天井を向きながら飲み込む。ようやく一息つく。一日中、胸は苦しく頭は痛い。楽しめることは何もなく、何も成し遂げていなければ遊ぶ権利はない。ひたすら思いついた事を携帯にメモしては行動する。それらは履歴書の空白期間を埋めるような重大な動きではないことが多い。
「履歴書 職務経歴書 自己紹介文」
頭が痛い。とりあえず油性ボールペンと書類を用意しなければ。書ける箇所から書いていこう。潜水しているような胸の苦しみは止まらない。一度休憩したい。オアシスはどこにあるんだ?だれか羅針盤を持っていないか?
心の苦しみを無くしたくて本を読む。それなのに逆に人間恐怖症になっていく。人が怖い。想像するだけで気持ち悪くなる。本から影響を受けすぎる。同化しすぎて苦しい。
落ち着ける場所に辿り着かなければ"心の深呼吸"は出来ない。
題『心の深呼吸』