たくちー

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12/28/2025, 7:08:36 PM

 妄想はタダだけど心の旅路にはお金が必要。凍風吹き荒れる中では心は旅に出たがらない。多重放送のリビングでは無意識に脳のリソースを消費される。

一人部屋にチェックインして少し硬めのソファに座り、クッションに背中を預ける。ヒーターの電源を入れ、備え付けのハンガーラックや小型冷蔵庫を自由に使う。窓はブラインドで遮断されており、足元にはカーペットが敷かれている。コード類は視界に映らず、ゴミ箱も見えないように配置されていた。ほっと一息つく。現実と向き合える場所に帰ってきた


心と現実の旅路はリンクしている。どちらも非日常感が必要なんだ。結局の所、お金がなければ心も身体も病んでいく。



題『心の旅路』

12/27/2025, 7:36:24 PM

 浴室の曇りガラスにシャワーをかけると痩せこけた姿が現れ、あばら骨がそれを補強する。湯船に足を浸かりながら、棺桶にも足を踏み込んでいる姿は90代と遜色ない。常にコルセットを巻きつけているような圧迫感が全身を湯船に浸すことで幾分かマシになる。だが今度は凄まじい疲労感で立てなくなり、半水浴の状態で何とか立ちあがろうと片足を曲げた姿で10分ほど努力する。ボクが入浴を終えれば父親が "くそっ!クソっ!"と悪態を吐きながら風呂掃除をするのだろう。鏡は新入社員のように凍りついていた。軽い同情を覚えつつ、せめてもの救いにと湯船に浮かんだ汚れを救っておく。


題『凍てつく鏡』

12/26/2025, 7:01:52 PM

 月明かりの夜に部屋で一人、イヤホンをつけて。
この世界から断絶する。初めて曲を聴く。

テレビに映るあなたの存在を知りました。
熱心に追うわけでもなく、Instagramを眺める程度。

ファンというには程遠い冷たい関係。
「会えて良かった」とそれだけ伝えたい。



題『月明かりの夜』

12/25/2025, 7:02:29 PM

 祈りを捧げる。「あ」の音を口内の5箇所から正確な発話で行う。目覚めの際、食事時、そして礼拝の時間。自身を通して神々への感謝を捧げる。意味をなくした通過儀礼であっても、祈りは神が神である事を思い出させてくれる。そして実りの季節が再び訪れる。稲を刈り、酒を醸造して奉納する。自身の身体は神への感謝を捧げる媒体物である。ゆえに不浄な行為もまた神へと捧げられてしまう。ただ一途に祈りを捧げる



題『祈りを捧げて』

12/24/2025, 7:06:56 PM

 ふらふらと路頭に迷った旅人が灯台の明かりを目指して螺旋状の段差を登る。踏みならされた獣道は長い年月を感じさせる。灯台の前には一軒のコテージがあり、鍵はかかっていなかった。最低限の毛布や家具があり、ひび割れた食器には雨漏りした水が溜まっていた。テーブルには一冊のノートがあり、表紙には"書く習慣"というタイトルが書かれていた。パラパラと捲ると感謝の言葉と絶望の怨嗟が入り乱れており、さながら天国と地獄だった。だがどちらも本音なのだろう。誰にも知られずに消えていく言の葉を地縛霊のように現世に留める。思えば遠くまで来たものだ。今は冬だが、旅に出たのは夏頃だったか。ここに辿り着くまでに何万歩の努力をしてきたのか。そもそも努力したという認識すらなかったかもしれない。気づいたら此処にいた。ここを訪れた誰かも同じだったのかもしれない。遠い日のぬくもりを思い出しながらペンを置く。次に此処を訪れる誰かのためにペンは置いていくことにした。…ふと思い出してもう一度ペンを取る。

メリークリスマス。
来年こそは恵まれた年でありますように



題『遠い日のぬくもり』

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