一夜の夢

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12/12/2023, 1:46:43 AM

あなたが何でもないフリをして撃ち抜いた僕の左肩が、今年の冬もしくしく痛む。
いっそ心臓に当ててくれたらよかったのに。
あの日僕が取り落としたナイフは、きっとまだあなたの家に転がっている。
痛みよりも強く、苦しみよりも長く、刻まれたあなたの印は癒えない。
さよならと言えないままで、微笑みだけ遺してあなたは去った。
僕が追いかけることを疑いもしないで。

許しと裏切りと愛は同じものだと、僕らは知っている。

12/10/2023, 12:07:08 PM

--忘れないでね。

「忘れないさ」

--絶対よ。

「当たり前だろ」


頭によぎる、暖かい微笑みは。
あれは、誰だったろうか。
何を忘れてはいけなかったのか。

格子付きの窓からそよ風。
白い部屋には慎ましい花束。
時折訪ねてくる、知らない人びと。
それから、指に合わなくなったプラチナ。


彼は顔を上げて、青空を見た。
懐かしい気配がそこにあるような気がして。
全て忘れてしまった自分だが、ふっと色々な記憶が蘇ることがある。
余りに断片的なそれらは、失われた過去を埋めるには到底足りなかったが。

また、そよ風が耳を撫ぜていく。

何か温かい物が頬を流れ落ちる。

彼は濡れる頬に手を当てた。
それが何かはわからなかった。
それすらも、忘れてしまった。


白い部屋のベッドの上で彼は、今日もたくさんの「わからないこと」と、不思議な哀しみを抱えて途方に暮れている。

12/9/2023, 12:14:07 PM

ふたり手を繋いで春の花畑を歩くの。
太陽が祝福するみたいに日差しを振りまいて、あなたの髪にきらきら反射する。
わたしは幸せで、あなたも幸せなの。
怖いことなんて何もなくて、すべて満たされたふたりだけがいるの。
それからあなたが私を優しく抱きしめて、わたしは暖かいあなたの頬にキスをするの。
ねえ、すてきでしょう。

雪のような白いシーツの海に埋もれる君は、まるで春の訪れを待つ蕾だ。
君が囁く憧れは幸福の色をして、窓の外の寒々しい冬空に柔らかな温度を与える。

ねえ、あなた。
春が来たらきっと、花畑に行きましょう。
約束よ。

微笑んで、君は目を閉じた。
静かな、本当に静かな寝息が聞こえる。
僕は君の手を握ってやった。
せめて夢の中で、僕と花畑を歩いていてほしい。
幸せな夢が君の体に命を呼び戻してくれますように。
迫る喪失から君を守ってくれますように。

約束だよ。
僕は眠る君にそっと囁いた。

12/8/2023, 3:39:41 PM

ありがとう、ごめんね。

ごめんね、のところだけ頭の中で呟いた。
きっともっともっと素敵な人が君の人生に現れる。

わたしのことは、なるべく早く忘れてくれていいよ。

さよならの代わりに笑顔の記憶をあげる。
だから、ごめんね。
君はなんにも知らないままでいい。

たとえわたしの最後の君の思い出が、後ろ姿だとしても。

12/8/2023, 8:46:35 AM

部屋の片隅で膝を抱える。
初冬の冷気が床から這い上がってくる。
悪夢を見るから、夜は嫌いだ。
眠れない日々はそれでも続いていく。
灰色に見える世界で、なぜ生きているかもわからないまま。
ただ死んでいないだけの人生は苦しい。
このまま床に沈み込んで、地面に埋まって、誰にも見つかりたくない。
何もない部屋から目を背け、体を抱きしめる腕に顔をうずめた。
とろとろと眠気が襲ってくる。
枯れ果てた涙を押し出すように、きつく目を閉じた。

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