緑、赤、青。
僕たちは流線型のカラフルな光になって夜空を駆ける。
あの一瞬だけ、自由だ。
僕の嘘も、君の罪も、全部消える。
見えない君が笑っているのがわかる。
ニトロの轟音。
また会おうよと、見えない僕が笑い返す。
失くしたすべては土煙に霞む。
僕は君が見た夢の中。
静寂の中心で、あなたの夜が明ける。
悲しみと希求の夜が、朝日に照らされる。
あなたの好きだった人の隣で、
あなたの望んだ言葉で、
休んでいいのよ、と。
はちみつ色が静かに世界を満たしていく。
呪いのような強さが解けていく。
光を受け、黒色がゆっくり閉じた。
あなたの無垢な瞳がわたしを見透かすとき、
わたしの愚かさがわたしを何年も老いさせるとき、
あなたの足元に膝をつき、
やさしくしないでと縋りたくなる。
ただ何億もの星を見つめて、
あなたの雌鹿のような眼差しはどこかをさまよっている。
あなたがやさしいほど、
わたしの醜さが引きずり出されているようで、
もうやめてほしいと、
わたしは罪もないあなたを突き落としたくなる。
イルミネーションの橙色がぼやける。
吹きつける風は痛いほどだ。
横断歩道の向こう側で、去年のきみが笑っている。
ハルシネーションは残酷だ。
ぼやけた光の奔流が、ありもしない幻覚を見せる。
泣いたらきっと、そのまま目まで凍ってしまう。
冬の街は寂しい。
きみが隣にいないから余計に。
煌めく電飾の海を泳ぎながら、ぼくは目に焼き付いた橙色を振り払った。
じきに衣替えの季節だ。
クローゼットの中はそれほど詰まっていない。
おれはいまだにきみがくれた黒いジャケットを捨てられずにいる。
ところどころほつれて毛玉も浮いてきたジャケットは、
それでもさすが高級品だ。
まだ暖かく着られる。
きっときみはこのジャケットのことなんか忘れているだろうけど。
たまにきみを遠くから見かけると、嫌でもおれとの隔たりを感じる。
本当にきみは全部、あの日々を全部忘れてしまったのだろうか。
あの日、きみが好きだと言ったおれを、きみは何も言わず抱きしめた。
おれは今年の冬も、もう残ってなんかいないきみの香りを探して黒い襟に鼻先をうずめるんだろう。