sairo

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12/28/2025, 3:34:03 PM

気がつけば、見知らぬ部屋で三面鏡を前に座り込んでいた。
窓から差し込む月明かりが三面鏡を照らし、暗がりに自分の姿を映し出す。表情もなく鏡を見つめるその姿は、まるで幽鬼のように虚ろだった。
鏡から目を逸らせずにいれば、自分の意思とは無関係に片手が上がる。鏡に触れようと、指先が近づいていく。
だが正面の鏡に映る自分は、凍てついたかのように動かない。虚ろな目をして、手が触れるのを待っている。

手が鏡に近づく。止めることもできず、逆らう意思もない。
微動だにしない、正面の鏡に映る自分へと指先が触れる、その寸前。

背後から伸びた誰かの腕が手を掴み、そのまま後ろへと引き倒した。

12/27/2025, 10:46:48 AM

雪の白に染められた道に、そっと足を踏み出した。
ぎゅっ、ぎゅっ、と雪が押し潰される音がする。振り返れば真っ白な世界に、足跡が続いている。
灯りなどなくても見えるそれに、不思議に思って空を見上げた。
空には白い上弦の月。煌めく星々が、やけにはっきりと見えていた。
満月でないというのに、随分と明るい夜だ。視線を下ろし周囲を見るが、光源は見当たらない。
ただ降り積もる雪が、月の光を反射して。
灯りのようにぼんやりと、夜の闇を白く照らしていた。

12/26/2025, 10:07:23 AM

祈ることで救われるのだという。
繰り返し言い聞かせられる言葉から逃げるように、家を飛び出した。
当てはない。無力な子供が一人で生きていけるとも思わない。
雪のちらつく外は寒々として、じりじりと体温を奪っていく。
帰らなければ。冷えた頭で考える。
帰りたくはない。熱の燻る心が叫ぶ。

祈ることで救われるなど、ただの幻想だ。
祈っても帰らない人を待ちながら、胸の痛みに顔を顰めた。

12/25/2025, 2:08:01 PM

そっと、目の前の小さな命を手のひらに掬う。
微かに響く鼓動と、伝わる確かな温もり。ほぅ、と吐息を溢し、目を細めた。

「いっしょにかえろ?」

問いかけに反応はない。
例え応えがあったとしても、何も変わらなかった。

「いっしょにかえろうね」

温もりを抱いたまま歩き出す。
帰ると決めた。だから一緒に帰る。

幼さ故の傲慢さを、今になって少しだけ後悔していた。

12/24/2025, 12:39:16 PM

ゆらゆらと炎が揺れる。
暗い部屋。燭台の蝋燭に灯された炎が、テーブルを囲う人々を淡く照らしている。

「如何でしたか」

誰かの声に、返る言葉はない。
沈黙が彼らの表情に影を落とす。それこそが、問いに対する何よりの答えだった。

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