しんしんと雪が降り積もる。
辺りはすべて白に染まり、どこから来たのか、どこへいくべきなのかも分からない。
ほぅ、と息を吐き出した。その息もまた白く、悴む指の赤が目についた。
「あぁ……」
溢れた声は白が掻き消し、何一つ残らない。
とても静かだ。
雪は降る。指の赤すら、白に染めていく。
唇が震えるが、声は出なかった。
きっと、雪が飲み込んでしまったのだろう。
夢を見た。
優しく、悲しく、愛おしく、憎らしい。いくつもの感情が混ざり合った、どろどろとした夢を見た。
手を伸ばしてみる。
届かないそれに、密かに安堵した。
届いてはいけないのだ。届いてしまったのなら、その瞬間からそれはただのものとなってしまう。ものとなってしまえば、すぐに興味をなくしてしまうのだろう。
手が届かない。だからこそどうしようもなく惹かれる。
難儀なものだ。自分のことながら呆れてしまう。
馬鹿馬鹿しいと嘆く。
そんな夢を見た。
聞こえるのは、誰かの囁き。
けれど目を開けても辺りは黒一色で、何一つ見えなかった。
「誰か……」
呟いても、返る言葉はない。ただひそひそと囁きが満ちている。
手を伸ばす。触れるものはなく、冷たい宙を掻くだけだった。
一歩、足を踏み出した。見えないことの不安はあるが、このままここに一人きりであるのは、もっと恐ろしいことのように感じていた。
ゆっくりと歩き出す。どこに進んでいるのかは分からない。
何も見えない暗闇の中、僅かな光を求めて彷徨った。
きらきら輝く一番星。
あの子のような光に、そっと手を伸ばした。届くはずのない星はどこまでも美しく、目を惹きつけてやまない。
一番星でなくとも構わない。小さな星屑の欠片でもいい。
星になって、あの子の側にいれたのなら。
馬鹿なことを考えてみる。
虚しくなって手を下ろし、力なく目を閉じた。
遠くで鐘が鳴っている。
教会の鐘だろうか。厳かに響く音に、顔を上げて空を見た。
薄い青を滲ませる空から、ふわりと冷たい白が舞い降りてくる。
風花。季節はすっかり冬へと変わってしまった。
鐘が鳴る。澄んだ空気を震わせて、聞き馴染みのない音が響く。
雪と共に風が歌を運んだ気がして、逃げるように家路を急いだ。