真っ暗な海。わずかな月と星の光だけ。人工的な灯りがないと、人ってこんなに見えない物なんだね。
あなたと二人、他には誰もいない。
幸せだ、と思う。幸せを、噛みしめる。
第一印象は最悪だった。ひたすらヘラヘラしてて「何コイツ、頭悪そう」って思った。
でも、それはあなたの人の良さだった。裏表なく、人に忖度する事もなく。人の裏を読む事もなく。
ただひたすら、あなたは「良い人」だった。
だから、一緒にいて楽。私も飾らず、気を遣わず、ありのままでいられる。
どんどんあなたに惹かれた。ホントに人を好きになるって、こんな気持なんだ、と解った。結婚願望のない私が、生まれて初めて結婚も悪くないかも、と思えた。
あれから色んな事があったよね。沢山の場所に行ったよね。全部が思い出。
人が良いだけに、馬鹿な女に騙されて、私と別れようとした事もあったね。
忖度出来ないとか、裏表がないとか······ホントはただ気が付かないだけの、周りが見えていない、ホントに頭が悪い人だと気付いてしまった事とか。
でも、全部過去の事。それも又思い出。
だつて、それでも、それでも。好きだから。
ずっと一緒にいたい。二人だけでずっと。
誰にも邪魔されず、二人だけの世界で。
今からはもう二人だけだよ。この暗さが全ての痕跡を隠してくれるから。
自転車に乗って、坂道を下る。目の前の海に吸い込まれそうな感覚。もっと速く、もっと、もっと。
カーブは少しスピード落として。潮の匂いと波の音。
もっと速く、もっと、もっと。
目の端を流れていく景色。自然の音も人の声も。全て一瞬で過去の事になって流れて行く。
後ろへ、後ろへ。
もっと速く、もっと、もっと。
嫌な事も全て流れて行く。流してしまう。流してしまいたい。
昨日起こった嫌な事。忘れられない過去の傷。心に刺さった小さな棘。自分の嫌な部分。
全部、何もかも流れて行って欲しい。
もっと速く、もっと、もっと。
もっと速く、もっと、もっと。
もっと、もっと······
そして、ホントに全てが過去になった。もう、私に、ミライハナイ······