「ささやかな約束」
貴方と私が交わしたたった一つのささやかな約束さえ、貴方は守れなかった。
私は、他には何も望まなかった。
隠し事をしてもいい。でも、嘘だけはつかないで。
たった一つ、私が貴方に願った事なのに。
浮気も、借金も、怠惰も。
貴方が正直でさえあれば全て許してきたのに。
でも、貴方はたった一つのさかやかな約束すら守れず、嘘を重ねた。
気づかないと思った?
誤魔化せると思った?
許されると思った?
約束を破る時は、覚悟が必要なんだよ?
許されるとか、多分大丈夫だろうとか。
約束って、ささやかだろうが重大事だろうが、大事な事なんだよ?
その大事な約束を反故にするんたから、当然ペナルティがあると思わなきゃだよね?
だから、今貴方がこうなったのも、全て貴方が招いた事。
私のせいじゃないよ?
貴方が、この破滅へのレールを敷いたの。
私は貴方の行動によってそのレールを走らされただけ。
だから、私は悪くない。
貴方の亡骸を目の前に、私はひたすら自分にそう言い聞かせ続ける。
「祈りの果て」
祈りの果てに手に入れられる物は何なのだろうか?
心の安定?平静な気持ち?怒らない心?
どんな物を手に入れられるかはわからない。
それが役に立つ物なのかどうかもわからない。
でも、きっと。
何かを考えて、何かを願って、心の底から祈るその気持ちが尊い。
そして、そうやって祈った果てに得た物も、きっと尊い。
人の心が、気持ちが、希望が、尊い。
「心の迷路」
自分の心が解らなくて、迷う事がある。
あっちに振れ、こっちに振れ。
一度正しいと思った事が、考えるにつれて間違いだと思える。
悩んで、別の道を模索して。
そして又袋小路に行き当たり、やっぱり前の道が正しく思えたりして。
そして又違う道を探して。
まるで迷路に迷い込んだ様に、正しい道が分からなくなる。
でも、よく考えてみて?
正しい道が一つとは限らない。
悩んで、考えて、苦しんで。
そうやってその時の自分が出した答えは、きっと正しい。
袋小路だったとしても、必要なアイテムを手に入れられるかもしれない。
そうやって、もしそれが回り道だったとしても、それでも最終的にゴールに辿り着ければ、それでいい。
だから。
迷ってもいい。
悩んでもいい。
引き返してもいい。
うんと遠回りをしてもいいし、何度同じ道を通ってもいい。
自分が通った道は、自分が切り開いた、未来への道になるから。
だから、心の迷路を怖がらずに、自分の道を進めばいい。
「ティーカップ」
母のお気に入りのティーカップがあった。
決して高い物ではないけど、絵画風の柄が入っていて、とてもキレイなカップだった。
でも、引っ越しのさなかに何処かに行ってしまった。
ふとした時に、「あのカップ何処に行ったんかね?」と母が言っていたけど、私も探したけど見つからず、でも「なくなった」とは言えず、ネットとかで同じ物を探したけど、古い物だから見つからなかった。
その内に母に病気が見つかり、ベッドで過ごす時間が多くなり、物を考える時間も山程あって、又カップの話をする事も増えていた。
そして、結局見つからないまま母は亡くなってしまった。
何で母があんなに大事にしていた物を失くしてしまったんだろう?
自分の手の中にある時はぞんざいに扱って、失ってから大切さに気づく。
それは物だけではなく、人もそうだし、信頼とか、形のない大切な物もそう。
何度も失敗したのに、何度も後悔したのに、どうして私は同じ失敗を繰り返すのだろう?
失った物はどうにもならない。
だからせめて、今度こそはこの失敗を糧に、自分の手の中にある大切な物を失わない様に生きて行きたいと思う。
そんな事しか出来ないけど、せめてそれが、母に対する謝罪だと思うから。
「寂しくて」
貴方が居ない。
寂しい。
深い喪失感がある。
ただ一人を失った、ただそれだけなのに。
世界に人は溢れてる。
その中のただ一人だけなのに。
なのに、世界全てを失ったかの様なこの喪失感は何なんだろう?
この、深くてやるせない寂しさは、何なんだろう?
わからない。
何もわからない。
ただ一つ確かな事は、貴方は私にとっては、誰の変わりにもならない、かけがえのない、ただ一人の人だと言う事。
私にとっては、世界の全てを失っても、それでも失くしたくないただ一人の人だと言う事。
そんな貴方を失い、ただ今はひたすら寂しい。
辛い。悲しい。苦しい。
貴方が、愛しい……