カップの縁に映る彼女の指先が、湯気を揺らす。
それが僕の鼓動に触れて、少し息を止めた。
いま、紅茶が冷めていく。
僕らの沈黙が、温度を奪っていくのかもしれない。
注がれた紅茶は、それを受けとめるカップの上で、静かな震えを広げる。
溢れそうな琥珀の縁を、僕はただ見つめる。
香りの奥で、言葉にしなかった想いが湯気になる。
彼女の心は薄く透ける磁器のようで、少しの熱でも揺らいでしまうから、
僕はその底で、ただ受けとめる皿のように在るんだ。
こぼれる雫も、沈黙も、どれも彼女のかけらだから。
題 ティーカップ
ウサギは、孤立すると動かなくなり、食べ物に手を付けなくなる。毛をむしり、最悪の場合はストレスで死んでしまう。
カナリアは、仲間と離されると鳴き声が増え、羽毛をむしり自傷行動を起こす。
グッピーやベタは、群れから孤立させると泳ぐ速度が落ち、隠れる時間が増える。
アリは、コロニーから離れると探索行動が増え、死亡率が上がる。
それを感じられるのは人間の特権ではない。
実際には、世界のあらゆるものが微かに震えながら、互いを探しているんだ。
それは、つながりたいというエネルギーの裏側に生まれる。
光があれば影ができるように、生きているという現象そのものに付随していて、死ぬ迄つきまとい、満たしても消えない。
人は寂しくて優しさが芽生える。
題 寂しくて
逆らっているわけじゃない。
ただ、自分の輪郭を確かめているんだ。
どこまで自由に動けるのか。
どこまで受けとめてくれるのか。
反抗期というよりも、
いやいや期のような――そんな気持ち。
それは、遮断ではなく、
自分と世界のあいだに線を引いてみて、触れて、確かめて、また描き直すこと。
それが、大人になりきらない心の描く境界線。
題 心の境界線
それは、目で見るよりも気配で感じるものだった。
木漏れ陽の中に溶けかけ、ほとんど色を持たず、
指先で触れれば、雪のように溶けてしまいそうなほど、
儚く透き通っている。
角度を変えるたび、淡い葉脈のような繊維がかすかに浮かび上がり、光を受けて揺れることで、初めてそれが羽根なのだとわかった。
風すら音を失う森の中で、木々の間から落ちてきたそれは、樹木の香りと光のあわいに溶け込んで、
静けさそのものを纏っていた。
題 透明な羽根
「触ってはいけない」と教えてきた火に、
いつのまにか自分の手で命を吹き込めるようになった瞬間。
それは、ただの技術の習得じゃなくて、
もっと古来からの命が継がれた感覚がした。
あの日、息子の手の中で灯ったのは、
焚き火の火そのものよりも、
「自分で火を起こせた」という喜びだったと思う。
ひとつの火を囲み眺めること、
それは太古から人々が重ねてきた祈りのかたち。
私たちに護られてきたその手が、
自らを守る側に変わり、
やがて何かを護る手へと成長していく。
胸の奥が熱くなり、そっと目を細めた。
あの日、あの小さな輪で灯火を囲む夜に。
題 灯火を囲んで