蒼穹の下、散らばる無数の糸。
選んだ覚えもないのに、
どこかの断面で君の糸と私の糸が擦れ、
ほぼ無音のまま絡みついた。
星光より細く、風の影より脆い糸。
触れれば千切れるはずなのに、
ほどけることなく、静かに絡まりを深めていく。
恐怖に気づいた時には遅く、
伸ばした指先よりも
時のほうが速かった。
拒む間にも、
離れたいと願う間にも、
絡まりの隙間では何かが増殖し、
鼓動の気配に似たものが立ち上がる。
望んでいなくても、
時間は容赦なく先へ進み、
絡んだ糸を「結果」へ押し込んでいく。
広くても、蒼くても、冷たくても、
逃れようとした軌跡さえ
糸の拘束に飲み込まれていく。
これは縁でも運命でもない。
ただ一度絡まったというだけで、
時が勝手に命を生やしてしまう
徹底して残酷な生成の現象だ。
そこに恋情も相互理解もない。
ただ強い香りに誘われ、
痛みの声を上げる。
あれは愛ではなく、
生存の連鎖をつなぐための、
純然たる本能の機構にすぎない。
題 時を繋ぐ糸
おちばのみち
ちいさなかぜ
ぜんまいのやま
まつぼっくり
りすのあしあと
とんぼのはね
ねむるきのこ
こもれびのそよぎ
ぎんいろのくも
もりのおく
くさのゆめ
めざめるあさ
さざめくおちば
バイオリンのおと
とおくからきこえ
えにしのように
にじむひかり
題 落ち葉の道
どこから入ったのかもわからないまま
気づけば、ひらけた風の通り道を探してる。
迷宮は出口を示すためのものではなく、
君が“誰にひらかれるべきか”を見つけるための回廊なんだ。
君の内部構造が自然にひらかれる先を目指して。
題 君が隠した鍵
私は未熟児として生まれ、重度の喘息のため入退院を繰り返し、義務教育をまともに受けてこなかった。
家庭はアルコール依存とモラハラ傾向のある父、
カサンドラ傾向のある母に支配され、情緒的・教育的なネグレクトが常態化していた。
両親の歪んだ倫理観から、漫画も本もテレビも、あらゆる遊びも禁止され、閉鎖的だった。
私に言葉を与えてくれたのは、酒に沈んだ父がギャンブルの景品で持ち帰るCDアルバムたちだった。繰り返し巻き戻しては歌詞カードを開いた。
今も私は語彙力がない。
私の話し方は独特なようで、どうしても、比喩・構造・抽象・ニュアンスの層で話してしまう。すると、しばしば周囲からは「回りくどい」「難しい言い方をやめろ」などと言われて衝突する。
ただ、自分の気持ちを正確に、精密に言い表さずにはいられない衝動だけに取り憑かれ、このアプリで思想文を書き続ける。
10代の頃、私はあの家を出て、ようやく適切な距離を取ることができた。
それは、長く握らされていた時間を手放し、本来の自分の尺度で呼吸できる空間を掴んだということ。
過去を捨てたのではなく、自分の未来を選んだということ。
影はしぶとく消えない。
“記憶の影”は誰の人生にも痕跡として残る。
私は影の支配権を奪い返し、背後に置いた。
「手放す」とは、消すことではなく、正しい場所に返すことだ。
私は、抑圧の継承を終わらせる。
題 手放した時間
わたしは、春に生まれた。
掌をひねったような若葉が、
まだ薄膜のように透けていた頃、
風はやさしくて、世界の匂いは水に似ていた。
夏が来ると、葉の緑は濃くなり、
太陽の光を飲み込むたび、
体の奥に“熱”が沈んでいった。
その熱は、まだ名を持たない。
いつか色になる前の、静かな胎動だった。
そして――秋。
ある朝、空気がひやりと変わる。
その一瞬を、わたしは今でも忘れない。
葉の裏側を流れる細い細い道が、
まるで呼び覚まされたみたいにざわめいて、
緑がほどけ、光が内側から滲み出してくる。
最初に赤くなったのは、
いちばん高い枝の、いちばん日を浴びた葉だった。
その葉が赤へ変わったとき、
わたしは思った――
ああ、これは“疼き”だ。
長い季のあいだ溜めてきた熱が、
血潮のように表へ溢れていく疼き。
やがて赤は橙と混ざり、
橙は黄を抱き、
黄はまた赤に縁取られ、
わたしは数万の炎をその身に灯した。
風が吹くたび、
その炎は揺らめき、
“色の音”が細かく鳴った。
ちり、ちり、と、誰にも聞こえない微かな音で。
それは燃えるのではなく、
自分の中にしまい込んできた季節をひらいていく営みだった。
春の淡さ、夏の熱、雨の重み、
鳥の影、虫の影、
あらゆる記憶が色へと、光へと姿を変える。
わたしの紅葉は、死ではない。
散りゆく瞬間まで、
世界を抱きしめるための「回想」だ。
葉が地へ落ちたときでさえ、
それは“終わり”ではなく、
土に戻ってなお続く呼吸の一部である。
わたしは毎年、紅葉という名の記憶を編み直す。
色のかたちを変えながら、
季節とともに生き、
季節とともに語り続ける。
題 紅の記憶