生の受動と、死への能動
死のうとすることは、
驚くほどエネルギーを要する。
その力は行き場を失い、
静かに、死のほうへ向かってしまう。
多くの人は、
無気力のなかで立ち止まり、
死へ向かう力さえ持てない。
たいていの人間は、“生かされている”。
死へ向かおうとする そのエネルギーの正体は、
きっと――
“本当に”、生きたがっているということ。
今が許せなくて、
けれど現実は、どうにもさせてくれない。
それでも、
せめて、どうか
自分のことだけは責めないで。
――差し出がましいのは承知だが、
かつて自分が欲しかった言葉を
この河へ流せば、
誰かの沈黙を
少しだけ破るかもしれない…。
題 あなたへ届けたい
深く澄んだ青藍の染色
落ち着きに心が凪ぐような秋
静かに覆う曇りの空
じんわり沁みてゆくスープの温度
音の霧に包まれるアンビエント
鑑賞しきらないアマデウス
ダ・ヴィンチの緻密な眼差し
布団の中がインドアの居場所
空気のおいしい自然と共存
共に暮らす気ままな猫
サンカヨウの透明な花びら
紫陽花の雨に濡れた蜜のにおい
子どもたちと本気の折り紙
空間ごと切り取り維持するアクアリウム
しだれたまつ毛と流し目の作る影
朝まずめと夕まずめに溶ける光
同じ空気のなかにあって強く干渉しないこと
題 I LOVE...
無邪気な頃は、
変身できる可能性そのものが楽しかった。
今は、
鎧を着ずに無害である自分が欲しい。
だから身につけるものは、
すべてノームコアで固めていく。
その上で、
一点だけ、どこかを外す。
それがいちばんおいしい。
新しいものに触れる予感。
まだ気づいていない欲望。
目的のない軽さ。
買わない自由を含んだ遊び。
賑やかな街は、
混沌を覆い隠すのが上手い。
光と音と、
過剰なほどの選択肢で、
思考をゆっくり底へ沈めていく。
今日は、
その華やぎを
彼と並んで歩いて楽しむ日。
流行に埋もれたお洒落を、
そっと掘り当てに行く。
とびきりの、
大人の遊び心が詰まったやつを。
題 街へ
誰も傷つけない言葉はない。
「大丈夫だよ」も崩れた地点では刃になる。
「みんなそうだよ」は重さを平均に変え、
「悪気はなかった」は謝罪にならない。
だから私は評価せず
「頑張ってるね」と、今ここまでの事実をそっと置く。
足りなければ言葉は使わない。黙って、場を丸くする。
優しさは理屈じゃない。
誰も傷つけない事はできなくても、
誰かの痛みを一人にしない位置はつくれる。
受け取る器のない優しさは、成立させなくていい。
やめてみても、人は案外弱くない。
それは冷たさではなく、成立しなかった関係を、
それ以上歪ませなかった判断だ。
題 優しさ
終電も失せて、
意味を果たすための音は眠った。
ここは、今日でも昨日でもない。
線路の先は、夜に呑まれて消えている。
目を覚ましているのは、夜行性の灯だけ。
なぜ、ひととして
生まれてきてしまったのだろう。
けれど、
みんな本当は
操られていたほうが
苦しまないのかな。
進みつづける秒針が
余計なおせっかいだと言っている。
操られていることは、
かわいそうじゃないのかもしれない、
なんて
思ったんだ。
題 ミッドナイト