『終わらない問い』
終わらない問いよ
お前とはもう随分と
長い付き合いになる
どんな天気の日だってお前は
私への問いかけををやめない
(どうしてそんなに愚図なんだ?)
(あんな言い方はなかったよな?)
(同じ失敗ばかり何度繰り返す?)
私に呆れてながらも
お前は私を見放さず
その声は
やまない
ああそうか
お前の声は
死の淵に於いてこそ
やむことはないのだ
(何も叶えられなかったな?)
(何者にもなれずに終わり?)
(こんなはずじゃなかった?)
──終わらない問いよ
お前は私の傍らに立ち続ける
ならば同じものを共に見よう
月や星や
空や雲や
花や鳥や
この世のそういう
美しいものたちを
時にはお互い
口をつぐんで
「求愛行動〜」
言いながら奴が手にしているのは、本物の孔雀羽根だ。フサフサと『揺れる羽根』には、まるでトルコの魔除けのナザールボンジュウ🧿、あの藍色の目玉みたいな模様が描かれている。
自然に抜け落ちた羽根を消毒したもの、という説明付きでネットショップで売られていた、さっき届いたばかりの20本の孔雀の羽根──それを奴が、俺に向かって広げてみせたのだ。
「孔雀が羽根広げるのはオスの求愛行動なんだって、知ってた?」
「っ、知ってるし、そんなん……こっちに向けんな、バカ」
羽根の複数の目の圧から逃れるように、俺は顔を背ける。文化祭は3日後、小道具の羽根飾りはいまやっと材料が揃ったところ。係である奴と俺の二人だけで仕上げなきゃならないし、だから徹夜、泊まりでとにかくどうにかしよう……ってことになったんだが。
一人暮らしの奴の部屋で二人きり、とかいうこの事態、それで浮かれてるのを奴には、気づかれたくないってのに。
そんなん、されたら……本気にするぞ?
「あーあ。なーんだ、求愛失敗か〜」
「ふざけてる場合か、時間ねぇんだ」
「わかってるって。……うん。じゃあ、羽根飾りが仕上がったら、またチャレンジしてみよっと!」
「……は、あ?」
奴が思わせぶりに、しかし爽やかに笑ってみせる横で俺は、動揺と期待で頭ん中がぐちゃぐちゃになっている。どうすんだ、俺……あと3日、正気でいられンのかよ?
『秘密の箱』の情景3篇
その1:
「あら? あんなところにお菓子の缶……あ、タケルくんの、かな?」
「そう。これは『秘密の箱』だからママも見ちゃダメ、ですって」
「あら。フフフッ」
「まぁでも見るんだけどね」
「あら? 見ちゃうんだ?」
「いちばん最初が……カマキリの卵」
「あああー」
その2:
「先輩、このお宅って……」
「なにも言うな。プロの引っ越し屋なら黙って運べ」
「でもこんな……全部の箱に『秘密』ってわざわざ書いてあるってのは、いったいどういう、」
「割れ物かどうかだけは客にしっかり確認しろ。本社が査定のために手配した仕込みの客かもしれない」
「えっ。そんなのあるんスか?」
「そうだったらいいなっていう、俺のただの願望だ」
その3:
「先輩、好きです! 私の『秘密の箱』、受け取ってくださいっ」
「俺も実は、お前のことが……これ、開けていい?」
「ダメです!」
「あーそっか、ごめんごめん。持ち帰って家で、」
「絶対に開けちゃダメです、秘密なので!」
「……えーと?」
「大好きな先輩だから渡すんです、私の秘密」
「でも、開けちゃダメなんだよね?」
「大事な秘密ですから!」
「……ええっと、とりあえず……軽いけど、カバンには入らないな」
「あっ、この面を上にして水平キープです。それと火気厳禁」
「なにを試されてるの、俺?」
『無人島に行くならば』
無人島に行くならば
ニンゲン辞めてからがいい
おまえが一匹いるだけで
島の秩序は乱される
無人島に行くならば
その身を捨てて
魂だけで
島の大樹の葉に宿り
落ちては大樹の糧となる
ああでもきっと
魂さえも
「ニンゲン由来は、お断り!」
有人島の輪廻へと
戻って、ぐるぐる
目をまわす
叶わぬ夢と知りながら
いまでも時折夢にみる
無人島に行くならば、と。
「『秋風🍂』吹きましたよね🍁」
届いたメッセージはいつも通り、ご丁寧に絵文字の入った、彼の世代らしからぬモノで。
そんなスマホの画面を見ながら私は、すっかり遠い目になっていた。
◇
彼に告白されたのは、彼が大学4年生の夏の終わり。
動揺した私は彼を連れてコンビニへ行き、そのとき出回り始めた季節限定の『秋』の文字が入った缶ビールを2つ買って、1つを彼に手渡してから言った。
「残りの大学生活を仲間と過ごして、就職して、なーんてしてるうちに、こんなアラサーに告白なんかしちゃったのは一時の気の迷いだったんだな、って思うよ、きっと」
「……じゃあ。一時の気の迷いじゃなければ、真剣に受け取ってくれる、ってことですよね?」
彼が学生生活を終え、社会人になってしばらくして──具体的には、夏を越して、秋風が吹く頃になっても同じ気持ちでいたなら、正式にお付き合いをしてもいい。
そんな条件と期限を付けて私は、彼とお試しのコイビトになった。
……ってね、彼が卒業して社会人になってからは、清い交際なんてモノも保てなくて、実質もう付き合っちゃってるよね、コレ? って感じだったりするんだけどね?
なんだけど、三十路ともなれば……もうね、いろいろダメだったときのダメージに耐えられない、だからこんなふうに及び腰になってしまうのは、しょうがないことだと思うのよ?
まぁ……でも。
彼がこの一年飽きずに、私なんかと一緒にいてくれたのは──律儀に期限いっぱい、お試しのコイビトでいてくれたってだけ、かもしれない。
今度会ったら「イヤ〜おかげでいい社会勉強になりました! サヨナラ〜!」ってことになったって、全然おかしくなんかないのだ。
◇
「フフッ。リホさんもこれ、実際に見るの初めてでした? ああ、ここの証人欄はウチの両親の名前です。お願いしたら喜んで書いてくれましたよ? ちなみにウチの両親も年の差婚なんで、……」
彼に会って手渡された婚姻届なるモノに、私は激しく動揺し、いろんな盾を繰り出したのだけれど。彼はその一つ一つを、完膚なきまでに粉砕していった。
「だから、まぁ……正式なお付き合いは、結婚してからすればいいじゃないですか?」
彼の話す日本語が、訳わかんなくて……泣けてくるとか。
ねぇ。ちょっとコンビニで、缶ビール買ってきてもいいかな?